富士見ファンタジア文庫――神坂一。そして2人の天才と2人の秀才

昨日のスレイヤーズ評論にもやや関わるけれど、富士見ファンタジア文庫を見ると本当に傑出した才能がいるなぁと感心する部分が多い。
コレはあくまでのオイラの見方でしかないので、それを断っておきます。
あ、今日の画像データはコラボレーション企画で小学館の雑誌「sabra」を持ち歩くメタルギアソリッド3のソリッド・スネークということで。小島監督は何を考えているのだろうか(笑) あ、でもゲーム関係者は確かにsabraをよく読んでる(笑)

神坂一は、天才なのか秀才なのか分からない。すごく才能があるのは間違いないのだけれど、天才というとちょっと違う気がする……。その後色々考えてみてちょっと似たタイプの作家が思い付いたのだけれどもそれはまた後で。
2人の天才というのは言うまでもないが大賞受賞者の2人、五代ゆう滝川羊だ。
この2人に関しては……もう、本当にスゴイとしか言いようがない。デビューしたときからの精度というか完成度が、とうてい新人とは思えないほどの高い、本当に高いレベルにあった。
五代ゆう:病気をしていたという話を風の便りに聞いたのだけれども無事直ったとのこと。めでたい。そして待望の新作単行本が発行されるとのこと。一昨日、カバーデザイナーのかがやさんから聞いて出る日取りを知ったよ(かがやひろしさんには、ライトノベル完全読本の表紙デザインをお願いしている関係で)。早速注文しないと……。
風と暁の娘 パンツァードラグーン オルタ
風と暁の娘 パンツァードラグーン オルタ
あの五代ゆうが、パンツァードラグーンを書く! この凄さはわかる人にしかわかんないだろうなぁ……。
それこそ<古橋秀之がサムライ・レンズマン>を書くとか、<福井晴敏がガンダムを書く>というのに匹敵することといえば、分かり易いだろうか。オイラはパンツァードラグーンはそれほど得意じゃなかったけれど、それをどう五代ゆうが書いているかは見逃せない。本当言うと「ヴァウキリー・プロファイル」も楽しみなのだが、続きは出ないのだろうか?
滝川羊:結婚したという噂を聞いたので繋がりある作家さんから電話してもらったのだが、まだ独身でした。やっぱりネット情報は信用ならねぇ(笑)
ライトノベル完全読本Vol.2とかでもコメントもらおうとしたのだけれども、時間がなかった。残念。「風の白猿神」2巻、あの出来でオイラは十分だと思うので早く出せばよいのにと思います。いや、まぁ事情は色々あるのだろうけれど。
なんどとなく書いているけれど、オイラにとっては滝川羊「風の白猿神」&上遠野浩平ブギーポップは笑わない」の歴史的意義付けは、アメリカSFに例えるとデビッド・ブリン「スタータイド・ライジング」&ウィリアム・ギブスンニューロマンサー」に近い。
作家的にもまったく同年齢の昭和43年生れ。恐ろしいことに福井晴敏も同年齢で、皆ことごとく「機動戦士ガンダム」や「ジョジョの奇妙な冒険」やらの影響を諸受けなのは何と言うべきか。
前述のアメリカSFはまぁ分かる人にだけ分かれば良いという例えだなぁ(溜息)。
この2人は本当に掛け値なしに天才だったのだが、その前に神坂一がいたからなぁ。すでに読者層自体が、<神坂一マーケット>とでもいうような形で形成されていたから。アレがいったい何だったのか、当時の読者が好んでいたのがナンだったのかというのをもっともっと詳述して行かなきゃならないのだけれども、本当に難しい。
そうした富士見書房の形成した大きな読者層は、結局、<神坂一マーケット>と、AICからやってきた企画として、スレイヤーズより少し低年齢層を捉えた<天地無用マーケット>だったのだろう。前者は「笑いをともなったパロディ&骨太のストーリー」であり、後者は「落ちものフォーマットの中興」と言えば分かり易いか。
富士見ファンタジア文庫で書いていた様々な作家が、この富士見読者層の2つのマーケットに対してアプローチをかけていた訳だけれども、現状においてこの2つの富士見マーケットを掌中に収めているのが、2人の才人、賀東招二築地俊彦というのが面白い。言うまでもないことだが2人ともPBMライター出身だ。
おそろしく乱暴な例えだけれども、富士見自体が、2つの<神坂一マーケット><天地無用マーケット>を維持しようという動きの中で、色んな作家が投入された――その中には言うまでもないが五代ゆう滝川羊も含まれる――。
でも結局、それはムリなチューニングだったのかなとも思う。
五代ゆうは、骨太のファンタジー、しかも「世界の破壊と再生」が根源的なテーマとなっている――というかほとんどそれしか書かない――わけだし、滝川羊は信じられないくらいリアル観をともなった少年達の楽しい会話を書くことは出来るが、基本的はロジャー・ゼラズニイの叙情性や夢枕獏の純な子供っぽさなので、パロディカルなキャラクターのアホさを神坂一的に書かせようったって上手くいかない。
PBMのアルバイトマスターやらグランドマスターという、変でかつ過酷なライター仕事に対応できた賀東招二築地俊彦だけが、自らをチューニングさせるという過酷な変容を乗り越えた上で<スレイヤーズ><天地無用>のマーケット的な後継者となり得たというのもさもありなんという感じがする。

神坂一が天才かどうかは自分の中で解釈がついていないので、よく分からないけれど、神坂一がいた時点で、五代ゆう滝川羊のスペースはなかったのかなぁ……。それはちょっと悲しいなぁ。