犬山市のリトルワールドは世界に誇る野外民族博物館だった

ようやく仕事が一区切り付いたので、取材に出かけることとする。困った事に2年ぐらい前から取材しなければならないことがたまっていたのだけれども、そろそろ某コンテンツの製作のためにはどうしても行かねばならなくなってきた。
こなさなければならないのは「京都取材三日間」「ベルギー取材一週間」「明治村とリトルワールド一日取材」だ。まぁ身近な所からこなそうという事で、三番目の「明治村とリトルワールド一日取材」からこなす事とする。京都とベルギー取材は春になってからだなぁ……。
朝の四時起きしてスタッフ起こして犬山市へと片道350キロメートルのドライブに出発である。
あー、朝四時起きするのなんて久しぶり、一昨年と去年は荒俣宏先生の同行取材でよくあったけれども。しかし、あの取材経験で我ながら取材の手際というのが恐ろしく良くなった。さすが世界の荒俣宏は取材に手慣れている。その薫陶を受けたので、我ながらかなり取材は上手くなったつもりだったのだけれども、今回はちょっと取材先の規模を見誤るというちょっと珍しいことがあったのでエントリを書く次第である。
というのは、「明治村がすごい事は分かっていた」のだけれど、「野外博物館リトルワールドが、こんなに世界一流の博物館」だとは思わなかった。
正直、自分の不分明を恥じる事を禁じ得ない。
確かに知名度低いし、色々と不具合の多いのだけれども、民俗学とかに興味ある人間は絶対に一度は足を運ぶべきだと思う!
野外民族博物館 リトルワールド
ハッキリ言って、リトルワールドは正門前に着いた時から、「なんかパッとしない造りだなぁ。掃除を余りしていなさそうでメンテナンスがよくない」と感じてしまうのは間違いないかもしれない。
が、建っている建築物が本格的で想像を絶している。
およそ30を超える世界各国の珍しい建築・民族的な住居などが野外に展示されているのだが、そのことごとくが、本物を移築したものか、あるいは本場の建築家を呼んで新築したもの・研究者による厳密な復元である。
およそ何を見ても圧倒される建物が多いのだけれども、まず凄さを感じたのが、南米ペルーの農園貴族の邸宅である。
正直、入場者数が伸び悩んでいるためか、ほとんどの建物がメンテナンス不足を感じさせる。ペンキはげているし、床の凸凹には昨日の雨の水たまりがある。
けれどもそれを補完すると、およそ怪傑ゾロの世界や南米映画を彷彿とさせる実寸の農園貴族の生活の場を見る事ができるのである。ベッドルームから礼拝堂、穀物庫まで揃っているのを目の当たりにするに、「これってちょっとおかしいんじゃないか」「一体どんな壮大なプランニングで作られた博物館なんだ?」と驚くこと必至である。
現在は中にはいる事は出来ないが、インドネシアのトバ・バタック族の家もまた壮大だ。日本の高倉式倉庫ににた住居であるが、外壁には細かい呪術模様が至る処に描かれており、その屋根を高く上げた形状が目を引く。
個人的に圧倒されたものはいくつもあるが、世界各国のテント住居実物一覧も目を引く物が多かったが、特筆すべきモノとしては、アフリカ関係の住居展示が圧巻だった。
少しでも収入を増やそうと部屋の一部が土産物屋や貸衣装の部屋として使われてしまっているのが残念なところではある。しかしそれを割引いても、とにかくその怪異さに驚愕すること必定である。
子供が行って楽しいのは、南アフリカ共和国の内陸部、標高900〜1500mの高地に住むンデベレ族の家だろう。
家の全面が水彩絵の具によって彩色されている。水性ペンキで描く色鮮やかな幾何学模様の壁画に彩られた家は、西洋文化の影響を受けたという点もあるらしいが、現代アートとしてアメリカの美術館に展示されていても引けを取らない。
西アフリカのカッサーナ族の集合住宅は、方形の男性住居、瓢箪型の女性住居に別れて幾何学模様に配置され、それは公園の遊具のような楽しさがある。
宗教を感じさせる住居という意味では、家の真ん中に死体を洗うプールがあるというインド・ケララ州の貴族宅などが圧巻だ。なぜ家の真ん中にそんな設備があるのか? インド五千年の英知を疑ってしまうのは間違いない(笑)
とはいえ、テーマパークとしてみた場合、本当につまらないというのも確かだ。大体においてリトルワールドでググると、一番最初にグーグルが提案してくるキーワードが、「リトルワールド 閉鎖」というのはどうよと思う。
しかしながら、それで検索して出てくる小論文「リトルワールド小考」を読むと、この野外博物館が、世界に類例のないモノスゴい野外博物館である事がよく分かる。

リトルワールド小考
博物館としてみたリトルワールドは凄まじいものがある。愛知県犬山と岐阜県可児にまたがる丘陵地帯に123万平方メートルと言う巨大な敷地を構え、そこに世界各地の特徴的な住居がゆったりと並んでいる。そして、その一つ一つが資料として非常に貴重な建築物なのだ。

例えばネパール仏教寺院なんかは車も通らぬ山腹に住むシェルパ族の村へ実際に赴き正確な実測を行い、さらに現地の絵師を連れ帰ってきて全て手書きによって仏画も再現(非常に貴重)、完成までに二年は費やした大建築である。しかし近年、その伝統も現地で危ぶまれている。つまるところ、新築でありながら作り直しが利かないのである。

また、そのほかにもインド・ナヤールカーストの妻問い婚の住居、オンドルのある韓国旧地主の家、馬祖信仰が窺える台湾農家、成功した日系移民の生活が見られるペルー・アシエンダ領主の邸宅などなど、海外旅行なんかではまず見る事の無いような(というか海外旅行にすら行かないような)地域の、大いなる特性を示す建物でいっぱいだ。どれも屈指の研究者が確かな調査をもとに移築・再現したものばかりで、細部まで抜かりは無い。建物ひとつにその土地の生活習慣がここまで映し出されているとは、と驚愕必死である。それぞれを一つずつ博物館として切り離してもいいくらいの施設だ。

文化人類学を学ぶ際、ここほど一度に世界中の民族文化を学ぶ事の出来る施設は他にない。各種文化を先進・後進と捉えるのでなく、それぞれの土地・時代で独自に発達・適応を遂げた物として等価値に捉えようとする文化人類学の需要自体も、世界の人口移動、交流、交戦が活発化している今、年々高まっている。

これは良いエントリなのでお勧めである。
wikipedeiaでの紹介も参考になるが、やはり経営は苦しいらしい。
リトルワールド - Wikipedia
とはいえ、色々なネタ作りのためにクリエイターが訪れるには、最高の博物館である事は間違いない。……予備知識のない人が行っても詰まらないという点で、テーマパークとしては失敗しているのが辛いし、まだ経営状態は予断を許さないらしいのであるが、少なくとも民俗学に興味がある人は足を運んでも絶対に損はしないという意味でお勧めである。