「ナウシカ特攻隊論争」について思いっきり補足してみました(愛・蔵太の気ままな日記より)

映画「風の谷のナウシカ」公開当時に話題になった「ナウシカ特攻.. - 人力検索はてな
過日、買っていた「SFの本 7」だが、どうやらここによると「ナウシカ特攻隊論争」の主戦場だったらしい。少し聞いたことはあったけれども、まさかその本がこの買った古本だとは気がつかなくてびっくり。確かに読者からの投稿に対して、10Pもナウシカ論争に関してページを割いている。
そう考えてみると偶然買った「SFの本7」は、「ナウシカ特攻隊論争」「巽×山形前哨戦」という意味で結構貴重な本だったということが分かる。
http://d.hatena.ne.jp/otokinoki/20050619/p1
以下、知っている以上は答えた方がいいだろうとも思ったので、はてなに回答してみた文章から引用してみる。

【引用ここから】
偶然ではありますが、先週の神田古本市において「SFの本 7」(スタジオアンビエント+新時代社)を入手していたため、この話題に関しては多少補足が出来るかと思います。手元には7号しかないため、周辺的にどのように広がっていったかに関しては分かりませんが、「SFの本 7」においては、この論争に関して、177P〜186Pとかなりの頁数を割いています。
「SFの本 6」に田中千世子氏の「『風の谷のナウシカ論』−『さよならジュピター』との比較において−」という評論が掲載され、それに対して「SFの本 7」において、これに対する反論として吉松成一(国立市)という方が書いた「田中千世子女史への反論」というのが、契機となったようです。それが掲載された7号に再反論にあたる「『風の谷のナウシカ論』Part2」というのが掲載されています。
手元は、元の評論である「『風の谷のナウシカ論』−『さよならジュピター』との比較において−」がないのと、反論・再反論ともに幾多の参考文献をあげての長文であるため、かなりおおざっぱな論点整理になりますが、以下のような形にまとまられる。
●田中千世子氏
「特攻」というのをあくまで美学の一つとして見て、ナウシカには特攻の美学があり、それはそんじゃそこらにある(「さよならジュピター」や「宇宙戦艦ヤマト」などに見られる)形骸化した自己犠牲ではなく、その行為が自己犠牲であることを忘れさせるほどの激しくて純粋な自己犠牲が見られる。
●吉松成一氏
ナウシカの捨て身の行動は、「自己犠牲ではなく自己実存の行動であり、自己実現の行動である」。宮崎駿監督が、おこなった制作サイド周囲の発言を見る限りにおいて、宮崎駿は未来に「絶望」しているのではなく、「この世はやるに値する」という姿勢が、東映労組での活動や『Comic Box』でのインタビューに見られる。
といった感じでしょうか。
少し印象深いのは、吉松氏が反論内において、田中氏の評論を「犯罪的である」というかなり強い口調で非難している点です。商業誌にそのままこれを載せるのはかなり勇気がいると思います。以下、末尾の結びの言葉を例に見てみましょう。

(前略)
以上、長々と書きましたが、それは『ナウシカ』というすぐれた作品に対する、特攻隊云々の冒涜を許せない一人のファンの気持ちからです。私は、『SFの本』の評論の質の高さを評価していたのですが、今後このような低俗かつ犯罪的な評論が横行することのないよう希望します。
『SFの本』編集部のみなさんへ

また、田中氏の再反論の末尾には編集部からの言葉が記されており、反論・再反論といった論争をあおる形での一文です。おそらくこれが契機となって、他の雑誌にも飛び火する形での「ナウシカ特攻隊論争」となったのかもしれません。

本誌六号の田中氏の論文に熱のこもった反論が届いたので、当の反論と田中氏の回答を掲載しました。大部長くなってしまいましたが、まともな論争の少ないSF界にとって、こうしたヤリとりは歓迎すべきものと思われます。特に、両人の論点の交錯する地点に美学があるのは編集子にとっても興味深いところです。浅田某の言う砂漠の時代において、美学は重要なテーマだと思えます。読者の皆さんはどのように感じられたでしょうか。感想をお寄せ下さい。宛先は『SFの本』編集部までです。
編集子

その飛び火した中での、論争の展開は分かりませんが、田中氏の再反論の中にある、「さよならジュピター」「宇宙戦艦ヤマト」との比較というのは、それぞれにファンの多かった作品でもあるので、かなり飛び火した先でも華やかな論争が繰り広げられたであろうことが、予想がつきます。
後は余談になりますが、どうやら『SFの本』編集部においては、こうした論争をあおることによってSFを活性化しようという意図があったように思われます。この編集子自体の文章からも、浅田某=浅田彰に対する揶揄が感じられるところも面白いです。時はまさにニューアカブームのまっただ中な訳ですから。
【引用ここまで】
こうしたSF界における活性化のために、論争を煽ろうという編集部の姿勢が、結果的に「巽×山形論争」へつながっていくのだろするならば、そうした傾向を強めた背景の一つに「ナウシカ特攻論争」も絡んでいたのだと考えると非常に面白い。
アニメック方面で行われていたΖガンダムへの色んな不平不満などとも鑑みて、ちょっと当時が忍ばれて面白い。
いやぁ! SFマガジンでの評論募集が楽しみになってきたぞ(笑)