愛される次男としての「龍馬伝」と、「サマーウォーズ」の解毒

最初は岩崎弥太郎ルサンチマン演出が、あまりにクド過ぎて見ているのが辛かった龍馬伝がだんだん面白くなってきた。

龍馬に関わる歴史上の偉人の脇役陣が増えてきたことで、目指そうとする方向性が見えてきた感じ。

とりわけ前回の吉田松陰生瀬勝久)と吉田東洋田中泯)、今回の坂本八平児玉清)と河田小龍リリー・フランキー)の描き方が興味深かった。

もともと時代劇初挑戦の福山雅治には、龍馬役は荷が重いだろうとのことで、香川照之岩崎弥太郎や、大森南朋武市半平太で脇役を固めている印象があった。

ただ香川照之ルサンチマンが前面に出すぎているのに対して、福山龍馬があまりに屈託がなさ過ぎて、なんだこりゃと思っていたのだけれども、前回の「松陰先生!ワシも黒船に乗りたいです!」とか、今回の死の近い父親と家族たちに「黒船に家族を乗せて世界を回りたい!」と語って涙を呼ぶシーンとか見て、むしろ積極的に屈託のない若者−−将来、大器晩成かどうかすら分からない一人の青年−−として描いているんだと考え方が変わってきた。

癇癖の吉田松陰や、変人・河田小龍は、そういう屈託のない龍馬に接して、好感を覚えながらも影響を与えていく様が描かれている。そして大家族の次男坊として、一身に愛情を与えられていたナイーブな好青年が龍馬でもあることが、今回、描かれている。

特に病で倒れた龍馬の父・八平に対して、河田小龍が龍馬の良さを語るシーンに端的に現れていた。次男としてここまで家族に愛されているキャラクターというのは近年どんなドラマでも中々無く、「屈託のない愛されキャラ」として、福山の性格とも相まって女性に人気なのも分かる。

そう考えてみたら第二回にあった違和感のあるシーンもちょっと分かってきた。はじめて藩からの堤の普請の監督役を龍馬がこなす時、雨の中で一人、土嚢を積んでいたら、最初は距離のあった農民たちもいつしか協力してくれたというシーンだ。俺はあまりに農民たちの翻心が唐突すぎて「演出的にどうなんだこれは」とか思ったりした。でも近時はそういうキャラクター演出がかなり見えてきて、「ああ、龍馬ってそこにいるだけで人を魅了してしまう……でも今はまだ無力の青年なのだな」と分かってきた感じ。

龍馬がそういう「愛されキャラ」である一方で、有能な吉田東洋と接しながらも意図くみ取れなかった固陋な武市半平太とか、知性に秀でながらもコミュニケーション力が低すぎて常に失敗ばかりしている岩崎弥太郎との対比が、あまりにも哀れであり、涙を誘う。

今回、福山龍馬と、佐藤健演じる岡田以蔵の絡みも面白かった。より詳細には次回描かれるらしいが、岡田以蔵が「考えることをすべて武市半平太に預けて自分で考えることを放棄してしまったキャラ」として描かれるであろう一部がちょっと透けて見えた。

これで坂本龍馬岩崎弥太郎武市半平太岡田以蔵と土佐の四人組の成長をいかに描いていくかというのが、ほぼ見えてきた。

坂本龍馬=屈託のなく、家族にも師匠にも女性にも愛される、純朴な青年。
岩崎弥太郎=知性・能力に秀でるが、コミュ力が低く、ルサンチマンを抱く青年。
武市半平太=知性・人望はあるが、固陋故に時代の変遷がみえない青年。
岡田以蔵=能力に秀でるものの、自分で考えることを放棄している青年。

近年の大河ドラマは、男女の主人公の生き方のモデルケースみたいなのを描いてきた訳なんだけれども、その女性主人公の生き方を下記のブログが非常に上手くまとめている。

妄想大河ドラマ ... 近年大河で流行の主人公タイプ

近年大河で流行の主人公タイプ

以下は2000年以降の大河主人公と、ひと言で表した私の印象である。
『葵徳川三代』 ゴッドファーザー→恐妻家→坊ちゃん
北条時宗 内裏雛
利家とまつ』 万能奥様
『武蔵』 不明
新選組! 香取慎吾
『義経』 物憂げ王子
功名が辻 万能奥様
『風林火山』 腹黒おじさん
篤姫 万能姫
『天なんとか』 ヘタレ

異論はあろうかと思うけれども、私のブログなので自己中心的に記してみた。一目して解るように、

万能女性

と いう主人公設定がこの十年の主流路線であることがはっきりしている。おそらく、来年の『江』もそうなのだろう(以下略)。

万能女性か……。なんか非常に昨今のライトノベルの主人公っぽいな(笑)。

こんな感じで考えていくと、龍馬伝「屈託のない愛されキャラの次男坊がどう成長していくのか」。そして日本の歴史を変革していったかというようなドラマになるのだろう。ただあまりに「愛されキャラ」として描かれることに、個人的にはちょっとした危惧もあるな。まぁそう言うのを危惧として感じてしまうのもおかしなことなんだけど。

例えば細田守監督の「サマーウォーズ」が『あんな名家の大家族なんて普通は親戚にいない』『引っ込み思案だけど数学の天才じゃないか』的な嫉妬の対象となったように、『愛されキャラの福山だし』とか『あんな家族に恵まれている主人公は』とかね。まぁその気持ちは多少分からんでもない。ただそれに巻き込まれるとフォースのダークサイドに落ちるからまったく支持しないけど(笑)。

ただそう考えていくと、そういう「サマーウォーズ」で、そういう風に起きてしまった英雄的な主人公へのルサンチマン反応を解毒するキャラクターとして、物語の最初に登場し龍馬への愛憎入り交じった感想を新聞記者に吐露した岩崎弥太郎香川照之がいるんだろうな。

土佐四人組の中で唯一生き残って、資本家として成功した岩崎弥太郎にとって、坂本龍馬は何だったのか。

ようやくココまで見てきて、そういう捉え方が出来るようになってきたので、岩崎弥太郎のあまりにクド過ぎるルサンチマン演出も、結構、容認できるようになってきたのである。