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第五十回群像新人文学賞の評論賞に、「セカイ&エロゲー系の村上春樹評論」が入選した件(笑)

 第五十回群像新人文学賞の評論部門の優秀作としてトンデモないのが入賞してしまったので、俺の中のSF業界(笑)に激震が走った*1。群像6月号(講談社)をゲットだ!
 小説部門の方は、当選作の「アサッテの人」が抜群に面白い。牧野修さんの電波文の秀逸さに常に敬愛を抱いている私だが、この「アサッテの人」に出てくる叔父の文章も大したものだ。
 最初に「ポンパ」とか出てきた時、どうしようかと思ったよ(笑)

群像新人文学賞「アサッテの人」諏訪哲史の内容紹介
 子供の頃、吃音癖のあった叔父が失踪した。著者は叔父の残された日記と小説の断片から、叔父が意味ある世界から逸脱した「アサッテ」の世界へと旅立っていってしまった事を知るという前衛小説。

 妻が生きていた頃は、《ポンパ》《チリパッパ》《ホエミャウ》《タポンチュー》とワケの分からん単語を突然叫ぶ程度であった叔父が、妻の死後、明晰な思考過程を保ちながら徐々に異世界の人へとなってしまうのを、学術論文のように追っていく著者の思考がこれまた怖い。
 構成・構造ともに色々とテクニカルに入り組んでいて、最初は「この電波な書き出しは何なんだ?」と思わされながら、だんだんと壊れていく叔父の……しかし叔父の中では奇妙な整合性を持った「アサッテ」の世界が現実性を帯びて来るという不思議な小説。
 最初に最後に記された「朝の日課」地図を見てしまったのだけれども、それに付記された異様な解説に汗腺が開いちゃうぐらい面白さを覚えた。
 いやぁ牧野さんにも強力なライバル出現だぜ……とか思って、受賞の言葉を見ようと思った時に飛び込んできたのが、群像新人評論賞優秀賞の受賞の言葉ですよ。

評論部門 優秀作
橋本勝也「具体的(デジタル)な指触り(キータッチ)」

 オレが息を止めた瞬間、ぶっ殺せ! と全身が脈打つ。だから奥歯を噛み締める。そして迷わず打ち抜く。イメージの中でアゴが砕けた。けれども衝撃は弱い。トドメを刺せ! 本能は命ずる。イヤ、止まれ! 理性が禁ずる。判定−勝ち? クソッ! 殺り損なった……。
 狙いは「当選作」。結果は「優秀作」。だったらサァ、笑えるわけネェ――だろ?
 年内に、評論と小説を届けたい。少なくとも編集部までは。できるならアナタまでも。
はしもと・かつや ‘72年ニューヨーク生まれ。京都府在住。

ギャー! なんかトンデモ受賞の言葉を久方ぶりに見てしまったぜ。いやライトノベル新人賞の受賞の言葉にはたまにあるのだけれども、なんていうの……自己陶酔と自己表現が間違った方向で表出しちゃったような……変なの。
タイトルが「具体的(デジタル)な指触り(キータッチ)」か……。
簡単に内容を要約すると
村上春樹がいかにして『海辺のカフカ』『アフターダーク』でセカイ系を超克したか
ってことなんだすが(笑)……。えーっとどこのエロゲーWeb論壇ですかという結論に驚愕。
なんの説明もなく「セカイ系」と単語が出てくるのだけれども、一応、説明しようよ。少なくとも「セカイ系」ってのはまだジャーゴンに引っ掛かってると思うぞ。
群像編集部が書いたあおり文句

セカイ系」に潜む「洗脳システム」と村上春樹的読者生成論

……評論はじまったな(笑)
あー岡田斗司夫東浩紀とエロゲー論壇のミックスねって分かって、それを一歩も出ていないことに本文を読んで再確認できることに逆に腰が抜ける。
他にも
■麻原とはまさに「エロゲー」の主人公だったのだ!
■ここで最近流行している物語のパターンを分析する。(中略)やがて美少女は世界ではなく主人公一人を救うために最終戦に突入する。もちろんお色気シーンもたっぷりあるよ。
■「キミ」と「ボク」のラブラブな恋愛奇譚、「セカイ系」の本質的構造だ。『最終兵器彼女』でも『イリヤの空、UFOの夏』でもなんでもいい。

とか、なんというか微妙な文章が頻出するので、
京都エロゲー論壇*2(苦笑)は必読だ。
ちなみに著者名をググって見たところ、
SFWJ:hyoron
に記述があり、どうやら早川書房主催のSF評論賞の第一回と第二回で最終選考まで残っていた事が分かる。
で、第二回の最終選考に残った論文「『メタボリック文学』に抗って」の講評が下記の通り。

まず、受賞を逃した二作品から述べさせていただきます。橋本勝也さんの「『メタボリック文学』に抗って」。前回も最終候補まで残られた方で、文章を読んだだけで「ああ」と思い出す、という独特の文体を持っておられる方です。前回とはまったく違う題材での再チャレンジですが、今回の評論の題材については、審査員全員からは概ね、好評でした。ホリエモン世代・エヴァンゲリオン世代である橋本氏が、たぶん、憎悪していると思われるいわゆるセカイ系、と呼ばれる物語世界を、自分の贅肉を見ないで、ひたすら自分に都合の良い世界を夢想している、と糾弾し、それをメタボリック文学、と名付けて、一刀両断にする、という論考は、なかなか独創的でした。独創性もあり、今的でもあり、また、評者自身が属する世代について語っている、という意味で、その世代に属する者しか語り得ないものについて語っています。ただ、全体的にはとても興味深く、面白いものの、結論までの文脈に無理があり、また、『メタボリック文学に抗って』というタイトルにもかかわらず、村上春樹という、すでに評価も定まり、つねに日本の文学界に君臨して、世界にも知られている、知らぬ者とていない作家にすべての解決をまかせる、というのなら、何も心配する必要も抗う必要も感じられない、そこでもう一歩、独創的な展開を見たかった、という意見が大勢を占めることになりました。
 とはいえ、前回の評論より格段の進歩があった、という意味では、審査会では大きな話題をさらった作品であり、彼の今後に期待したいと思います。

って、これって群像新人賞を受賞した「具体的な指触り」とまんま同じじゃん!という事が分かる。
念のため、伝手をたどって「『メタボリック文学』に抗って」を読んだ事のある方に問い合わせてみると、どうやら同じ内容らしい。
二重投稿かよ(笑)
まぁ群像新人賞の規程に置いては、未発表作品のみという規程のみで二重投稿に関しては特に禁止されてはいないのでセーフってとこだろう。
でもなんかこーゆーところまでライトノベル新人賞を落選したDQNがよくやってしまうようななダメダメ感が漂っていて、いっそうこの評論賞を香ばしいものにしており、ご飯三杯いけてしまいそうである。
「デビュー」といういくらでも時間があるという最後の機会に(プロになると締め切りがあるからね)、持ちネタがひとつしかない評論家ってどうなんだという疑問を感じさせる瞬間だ。
これに対して加藤典洋さんが講評を述べていて、

加藤典洋の論評
ウェブサイトの文章が試走車用のリンクから路上に出てきたような面白さがある。ただ検証がない「一通」の書き方であるだけに後半、読者はほとんど投げ出すほかない。他のものも読んでみたいとう気持ちから、優秀作にという案に賛成した

というもので苦渋の決断を感じさせる文章に落涙を禁じ得ない(笑)
多分、SF評論賞第一回に落選したヤツを改題したのが第二評論になって加藤先生が読まされちゃうんだろうな……。
京都エロゲー論壇にまた一人、強力な論客が登場した事を喜びたい(棒読みー)。多分、近日中に本田透あたりと対談しちゃうと思うので、エロゲー論壇は見逃すな!*3

*1:どれぐらいの激震かというと、俺の中のSF論壇の巽さんと山形さんが意見一致して、これはないだろうと苦笑してしまうぐらい

*2:京都在住の論客はどうしてあんなにエロゲーで人生を語りたがるのか? それを総称して「京都エロゲー論壇」もしくは「京大エロゲー論壇」と個人的に呼んでおります。なんでだろー。まぁ東京ちゅーか東大にもエロゲー論壇は多いけど、なぜか京都には純然たるエロゲー論壇があるよね

*3:いちおう書いて於くけど褒めてますよ。よくぞ群像編集部を謀って、受賞した上でこんなの載せさせたなぁーと感心しております。ま、評論としての出来は、Webでは一般化しているのを掲載させたってぐらいでまだまだだけどね