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オール新人SF短篇集「原色の想像力」レビュー

第一回創元SF短編賞に応募されてきた作品で最終候補に残った作品のうち9作と、第一回創元SF短編賞を受賞した松崎有理さんの受賞後第一作を収録した『原色の想像力』が刊行された。
 で、読後感想をほとんど書き上げたところで、下書きが消えてしまったので再度書きなおし。泣きそうである。


 先入観なくこんな形式で短編を読める機会などは滅多にないですね。本当に面白い企画だと思います。
 で簡単にレビューなどを書いてみます。
◆うどん キツネつきの:高山羽根子(第一回創元SF短編賞 佳作)
 パチンコ屋の裏で不思議な生き物を拾って、その生物をペットとして飼い始めた三姉妹と家族の生活を描く。と言っても実はあんまり不思議なことが起こるわけではない不思議な読後感を残す。最期まで読むとうすうすそのペットの正体も解るんだけど、それよりも三姉妹(+お母さん)のちょっとズレた恋愛や生活描写の方が面白い。それを楽しめるかどうかで評価が変わってしまいそうな作品。
◆猫のチュトラリー:端江田仗
 主人公の家の福祉用ロボットが、ソフトの不具合から、「捨て猫」を「捨て子」とご認識してしまうことから起こるちょっとした家族のドタバタを描く。「うどん キツネつきの」に出てくるお母さんもそうだが、この作品に登場するちょっと気の強い義母さんが面白い。こういう風に両親との関係をきちんと書ける作品は強いなぁ。加えて近未来技術と一般家庭の距離感がとてもリアリティがあって楽しく読めるハートウォーマーな話。
◆時計じかけの天使:永山騾馬
 学校でのいじめを無くすために、いじめの標的となるロボットを学校に転入させる法案が可決された近未来の日本……と書くと吉田戦車の「いじめて君」を連想してしまう俺はもうオジサン過ぎるのかもしれない。まぁそんな「いじめてちゃん」がやって来たことで、主人公の女の子はイジメから救われるのだけれども……という話。ちゃんとオチがつきつつ感動的に話は〆るんだけど「いじめて君」を連想しちゃうと色々と読みにくいかも。連想するのが悪いのかもしれないけど。
◆人魚の海:笛地静恵
ジェームス・キャメロンやら永井豪が大好きなんだろう! この著者は!」と思わずにはいられない快作(怪作)。筋肉巨大女フェティッシュな作品。日本の離島を思わせる島では、女性が「人魚」として「巨大化」できる不思議な習俗があった(優秀な女性だと人間の30倍ぐらまで巨大化できる)。それを元に島の奇妙な祭りや男女の恋愛、そして戦いを描く作品。書き出しを読んだ時に一番期待させられた作品。ちょっと最後は大団円過ぎるかなとか思ったけれど、個人的にはとても面白く読めました。
◆かな式 まちかど:おおむら しんいち
 ひらがなが、自意識を持って「自分」ならぬ「字分」探しに悩むという不可思議な話。読んでいると中島敦のように「ゲシュタルト崩壊」起こしそうに思うのだが、逆に各々のひらがなに個性が出てきて、崩壊ならぬ構築される感覚が味わえる不思議な作品。
・「の」が、「め」や「あ」と会って、字分には何か足りないのか悩む。
・「れ」が、「わ」と字分の違いで、アイデンティティについて悩む。
・何故か「ふ」は小説家で、『一筆書きの幸福』『書き順も忘れられた告発』等の、ひらがなにとっては純文学ともいえる小説を書いている。
とか、変な話が書いてある。一番くすくす笑えた短編でした。
◆ママはユビキタス:亘星恵風
 今回の短篇集の中で、一番SFらしい宇宙SF。スーパー技術者であるママによって、世界全体の技術が進んでいく中で、銀河に向かって旅立っていた『彼』を、空間・時間のスケールを超えて追いかけていく話。それにまぁ宇宙人とのコンタクトも絡んでくるのだけれど、こうして書くと『虚無回廊』の1エピソードみたいだ。タイトルのひねり具合だけで「おっ」と面白くて読みたくさせるのが上手いなぁ。一番、次回作が気になる著者でした。
◆土の塵:山下敬(第一回創元SF短編賞 日下三蔵賞)
 一番オーソドックスながらも、きちんとオチもあるタイムトラベルもの。読んでみてものすごい驚きみたいのはないのだけれども、安心して読める安定度の高さに感心した。でもその反面で、男性視点で恋愛みたいなのを書くと、(後の「ぼくの手のなかでしずかに」もそうなんだけど)、ちょっとナイーブすぎる感じになっちゃうものなのかな? もうちょっと突拍子も無いネタで次回作を読みたいなと思いました。
◆盤上の夜:宮内悠介(第一回創元SF短編賞 山田正紀賞)
 四肢を無くしてしまったが故に、囲碁盤を自分の体の一部のように「感覚」として捉えるようになってしまった女性棋士の数奇な運命の変転を描いた短篇集。内容もさることながら一番サスペンスフルに読めた作品。その「感覚」を伝えるために、多言語を使う辺りとかが面白く読めました。ラストはもうちょっと斜め上ぐらいに持っていってくれると良かったかも。
◆さえずりの宇宙:坂永雄一(第一回SF短編賞 大森望賞)
 図書館が「バベルの図書館」を超えて、自意識を持ち始め、さらにTwitterで呟きながら戦いあう世界を描いた作品……って理解で正しいのかな? 最先端で面白いと思うのだけれども、ただ個人的には「説明し切らないのが最先端」というのが最早古いような。ちょうど2000年代始まった頃に「セカイ系には食傷気味だな」と思ってしまう新しもの好きな質(たち)なもので、いっそ全部説明した上で描き切っちゃうほうが、逆にいい作品になったような気もします。その意味ではこの世界観で長編が読みたいかもと思ってしまいました。発想力はこの作品が一番ぶっ飛んでいると思います。
◆ぼくの手のなかでしずかに(第一回SF短編賞 受賞後第一作)
 単年度単位での契約で、数学の研究をしている非モテの研究者の恋の話。SF少年が心奪われる魅力的なヒロインという意味では、本作に出てくる女性が一番魅力的かも〜。でもそれに反比例して主人公のウジウジさも大きかったりするのだが。男子視点で書くとどうしてもこうなってしまうのかな? 受賞作の遺伝子の話もあったので、今度は男女の絡まない話をお読みしたいなと思いました。


期待以上に面白い作品が多かったのでお得な短編集だと思いました。
というのも、本当にプロの人が書いた作品集だと、「切れ味を重視して、ラストの衝撃度を大きくしようとする余り、なんかSFというよりもホラー短編・不条理短編に近くなる」みたいな印象が最近、自分の中に出てきちゃって、少し困っているというのも理由としてあるのかもしれない。
 売れ行きが良くて、次回も続けられればいいなと思う企画でした。