藤本有紀の新ドラマ「咲くやこの花」が楽しみ! 娘と母と師匠のドラマなのかな?

NHKの朝の連ドラってすごく大好きなのだけれども、近年で一番楽しんでみることのできた「ちりとてちん」の脚本家であった藤本有紀の新作ドラマがいよいよ公開される。今度は土曜時代劇百人一首を題材にしたドラマ。
朝ドラでは「ちりとてちん」の後、「つばさ」とかいくつか期待の朝ドラマがあったのだけれどもあんまりハマらなかったんだよなぁ……。「つばさ」に関していうと、予告編をいろいろ見てあれほど期待値の高かったドラマはなかったのだけれども、今ひとつ演出が肌に合わず、意図していたテーマを最後まで追いかけてみる気がしなかった。
で、いよいよ藤本有紀のひさかたぶりの登板である。
咲くやこの花 | 土曜時代劇
題材的には「ちはやふる」と同じ百人一首だけれども、末次由紀の「ちはやふる」が少女漫画の王道的なストーリーを展開しているのに対して(「ちはやふる」も好きな少女漫画だけど)、設定とか脚本家コメントを見るだけで「咲くやこの花」のひねくれ具合が伝わってくるので興味深い。

百人一首が大好きで、地味に目立たず生きようとしていたはずのヒロイン・こい(成海璃子)が「大江戸かるた腕競べ」で勝ち進み、江戸中の注目の的となっていき、さらには仇討ちを志す浪人・由良(平岡祐太)との初恋を経験する中で、人間として成長していく大江戸青春グラフィティー。

この地味に目立たず生きていこうっていうのが、どういうふうなのかが気になるなぁ。米澤穂信の「小市民」シリーズ?みたいなのを連想するのだけれども、藤本有紀の前作は「何事にも自信の持てない後ろ向きのヒロインが、落語という伝統芸能に踏み出すことで、自分自身と母の立ち位置を見出す話」だったことを考えるとそれともちょっと違う気がする。
脚本家コメントで藤本有紀はこのように話している。

作者のことば…藤本有紀
 子どもの頃、お正月にはよく家族で百人一首かるたをしました。
 家族それぞれになんとなく「好きな歌」があって、みんな、その札だけは取られまいとしていました。
 スポーツでもなんでもそうだと思いますが、親となにかを競い合っていると、あるとき突然に、自分のほうが強くなっていることに気がつく瞬間があります。
 わが家の百人一首でも、そのときが訪れました。
 ある年のお正月、父のお気に入りの歌が読まれたのに、父はその札をいつまでも見つけられずに探しているのです。
 私はとうの昔に見つけていましたが、身を乗り出して懸命に探している父を見ていると、先に手を出すことができませんでした。
 やがて父が札を見つけて取りました。父はとても満足げで、私はどうしようもなく泣けてきました。
 そのことを、どういういきさつだったか学校の国語の女の先生に話すと、先生は泣き出してしまいました。その感受性に、私はひどく驚きました。
 遠い昔の、ささやかなそれらのできごとを、今でも鮮明に憶えています。
 お正月の家族の団らん。勝つことの楽しさ、痛み。成長することのほろ苦さ。共感して泣いてくれる先生の存在。くり返し読み、聞き、憶えた百首の歌。そこから伝わってきた恋や人生。
 それらのできごとをこのドラマにこめようとしたわけではありません。
 今このドラマが作られるために、それらのできごとがあったのだと思っています。

藤本有紀は、娘と母の関係性みたいなのに執着するのが面白い。
うーん、確かに今現在、いろんな作品に「母と娘の関係性」みたいなのがよく描かれて、それをどういうふうに解除するかってのは大きなブームとなっているテーマだろう。これはどうしてだろうと思っていたのだけれども、p_shirokuma先生と話したなかでちょっと判ったことがある。「80年代〜90年代前半ぐらいにすごく多かった精神的に病んでいた女性が、快癒しないままに母親になってしまった現状」っていうのを指摘されてなるほどそうかって納得したことがある。そりゃあ、ラノベやらブログとかで「母親からかけられた呪いに苦しんでます」みたいなのが多くなるわけだ。
「あなたは将来、あなたの母親と同じ生き方をする」
というのは、娘にかけられた一種の呪いともいえるフレーズだけれども、「ちりとてちん」というのは、それを落語−−立川談志のいうところの「人間の業」−−みたいなのを呪いとしてではなく、ひとつの祝福の在り方として受け入れる話だった。
ちりとてちん」が、「誰からも愛される陽性の天然ボケの母と、妄想では愛されたいと思いながら現実は正反対の陰性の娘、大舞台に穴を開けたゆえに引きこもる師匠」であったのに対して、「咲くやこの花」では、ヒロインの母がちょっと疲れた感じの余貴美子、ヒロインの師匠は「篤姫」の熱演が印象的な松坂慶子と、構図的には正反対になっている。
まだまだ放送前なのでどういう展開になるかは不明だけれども、藤本有紀である以上、一筋縄にはいかないだろうか
ら非常に楽しみである。
龍馬伝」の感想はまたこんどね。