小川一水の新作単行本「煙突の上にハイヒール」。

光文社の小川一水の単行本「煙突の上にハイヒール」が、小川さんの新しい可能性を開いてくれそうで面白い。

煙突の上にハイヒール

煙突の上にハイヒール


発売直後に購入して、ずっと書店購入のカバーを掛けていたのだけれども、それをハズして机の上に置いておくと、色んな人から

森見登美彦の新作かと思ったら、小川一水の新作だった』

とか言われる。まぁ確かにその通りの感じではある。
小川一水の単行本はすでに四冊目だけれども、その中でも結構異質な感じだ。

天涯の砦 (ハヤカワ文庫JA)

天涯の砦 (ハヤカワ文庫JA)


妙なる技の乙女たち

妙なる技の乙女たち


風の邦、星の渚―レーズスフェント興亡記

風の邦、星の渚―レーズスフェント興亡記


表1の帯文句より表4の帯文句の方が、結構、注目かもしれない。この編集者の視点ってかなり興味深い。

技術は進歩するし、新製品も目白押し。
けれど、私たちの「幸せ」はそんなに変わらないみたいです。
背負って使用するヘリコプター。
猫の首輪に付けられるような、超軽量カメラ。
介護用のロボットも、
ホームヘルパー用のロボットも、
少し先の時代には当たり前になっているのかも。
あなたなら、楽しい使い方を思いつけますか?
テクノロジーと人間の調和を、優しくも理知的に紡ぎ上げた、
注目の俊英による最新傑作集。

日本人の男性作家の中には、ある種の技術者=テクノクラートの匂いがする小説がある。すごくゆるゆるに捉えるとその一部にハードSFも入ってくるワケだ。
小松左京から延々と続く、そういうテクノクラート小説が、私も昔から大好きだった。
ただ困ったことに近年になればなるほど、そう言うのを書ける男性作家が描くテクノクラート小説において、なぜか主人公が「女性」になってしまうのが困りもの(苦笑)。
「日本においてテクノクラート小説やハードSFで、男性を主人公に書くと、技術から離れた政治的なども生々しく書かねばならなくなるからイヤ」という理由も分からなくもないし、小松左京のように「男が冒険に旅立ち、女は待ち続ける」というモチーフもさすがにポリティカルコレクトにどうだろうなぁと思うから仕方ないんだけれども。
同様に日本における革命モノの一変形である「生徒会モノ」も、最近はことごとく生徒会長は女性だしなぁ……。好評だった「雷撃☆SSガール (講談社BOX)」も、これも「生徒会モノ」「テクノクラート小説(会社小説)」のミックスなのだけれども、主人公は女性だったなぁ(溜息)。とはいえ近年のこのジャンルでは、頭一つ抜け出していて非常に面白かったです。値段以上に価値のある一冊でした。

雷撃☆SSガール (講談社BOX)

雷撃☆SSガール (講談社BOX)


とはいえ、自分の中の男気分を押さえるためには、ちょっとそういったテクノクラート小説から離れてしまい、「警察小説」を書いている佐々木譲とか今野敏に奔らざるを得ないのはちと寂しい。
かつて某SF作家が書いたエッセイに曰く

でかくて黒い機械の側で働く女性は、男の気持ちが分かる女性だ

というのは確かに真実なのだが、そういう女性に理解されたいという心情を前面に出し過ぎられると、40代のオジサンはちょっとむずかゆい部分もでてくるのだ。
さてさて、そんな中で明らかにこの「テクノクラート系」に括られる小川一水の新作だが、単にそういった「テクノクラート成分」を一つ突き放しているような感覚が、今までになかったので興味深い。
小川一水と言うと

女の子は常にある種の「お姫様」。男の子に恩寵をもたらす代わりに決して不幸にならぬ
テクノロジーの進歩は、劇的に人間性を変革し、楽園を将来する

というテーゼに縛られすぎていた観があるのだけれども、多少、それらへの客観性が出てきたような感じがする新作だ。
女の子と介護ロボットのミステリアスな会話によってストーリーが進む、三編目の「イブのオープンカフェ」が余韻も含めて出来が良かったように思った*1
このはるか彼方の延長戦上に佐々木譲の「廃墟に乞う」が来るんだろうなと思わされた。
まぁたぶん佐々木譲はこの「廃墟に乞う」で直木賞を取ってしまうだろうし、その道筋足るや本当に「はるか彼方」なのだけれども。

廃墟に乞う

廃墟に乞う


今まで小川一水を読まなかった女性読者にもお勧めしたい一作。

*1:いやもう一捻り欲しかったけど