「ギートステイト」を読む

知人から強烈に勧められたことと、前々からどうにも読まねばと思っていた機会が一致して、ようやく「ギートステイト」を読み通す。
404 File Not Found
乙木なりのギートステイトの理解を書くと以下のようになる。

相対的に落ちてくる日本の「経済力」と「政治力」という地政学的な環境の中で、外資導入」と「コンピュータ資産」と「市場による統治」の三本柱を利用することで、かろうじて生活環境の維持に成功している近未来像。

それがギートステイトの世界だ。
極めて日本的な「しょうがない」「対症療法」で政治的に流されていった場合、かなり確度の高い予測であることは間違いないだろう。
わりとこういうディストピア未来予測モノというのは、SF新人賞での応募作にも多いが、さすが東浩紀桜坂洋の両氏が作った未来予小説としては、頭三つくらい抜きん出ている。
アーキテクチャの重視」という思想を知らしめるにはかなりベストに近いテキストだと思う。小学生の頃、図書館で借りて読んだ光瀬龍か何かの管理都市モノ(タイトル忘れた、光瀬龍だっけかなぁ?)を思い出した。
「動物を管理するためのアーキテクチャ
と名付ければいいだろうか?
こういう話あたりはアーサー・C・クラークor新城カズマの両氏などが得意とするところでもあり、半世紀スパンというよりも5年から10年という短期スパンで物を考える企画屋稼業の乙木としては、《そのアーキテクチャーを作りあげたエリートの物語》を知りたいなぁとは思ってしまう部分もある。
東浩紀は「404 File Not Found」において、「ゼロ年代の想像力」と「ギートステイト」を比較しつつ、「ギートステイト」をリバタリアンの物語と定義して

「小さな成熟」がいくつも林立し、たがいに衝突しあっている??いや、衝突しないくらいに離れている、そんな世界を提示しようという試みだからです。
404 File Not Found

としている。
乙木としては、「複数の銀河が互いに衝突しないくらい離れていても、その構造へと流していった《決定者=エリート》は複数の銀河を渡り歩いて概観せざるを得ないし、そこが《物語》としては、面白いんじゃないか」と思う部分もあります。
完結前のストーリーであるだけに、この感想は的はずれになる可能性も高い。ただ管理のためのこういったアーキテクチャが《やむなく政策として打ち出された》《やむなくこうなるに至った》観がしてきて、ちょっと読み物としての辛さがでてしまう辺りはしょうがないかもしれない。大逆転的なコードブレイカーを海神(兄)他に期待中。
そういう意味では、もうちょっと上位管理者というか、社長でも市場プレイヤー、政治家、歴史家でもいいのだけれども、その設計(アーキテクチャ)思想・設計概観を読みたいかなという欲求はある。
帝国主義の後ろ盾をスペンサーが、ニューディール政策の後ろ盾をケインズがしたような何らか判りやすい指標というか、アーキテクチャ設計者の思想を見たい。中途半端に勉強した身からすると、その方がもっと力強いシミュレーション小説になるんじゃないかなと思っております。
ま、日本だとこういう政治経済学者や思想家よりも、後藤新平松下幸之助本田宗一郎柳井正みたいな経済人の可能性が高いですけどね。
そう言う意味では、ギートステイトの提唱する

外資」「コンピュータ力」「経済の自律統制」の三軸で、大衆の幸福を管理するアーキテクチャがあれば良し

という点は非常に同意するところが多い。ただその反面で設計者の養成も必要なんだろうし、そっちの物語の方が面白いかな?と思うところが乙木にはあります。
404 File Not Foundにおいて東浩紀氏が看破したとおり、転向後の宮台を支持する「ゼロ年代の想像力宇野常寛氏のコミュニタリアン的な思想というのは、

動物の棲み分け徹底。島宇宙で管理する。その一方で、複数の島宇宙を渡り歩けるエリート=アーキテクト設計者養成のためのコミュニタリアン的な発想

なんだろうなと思います。
ゼロ年代の想像力』でおそらく語られることになるであろう、「フラワー・オブ・ライフ」「海街diary」etc.を考えていくと、この「アーキテクト設計者」のコミュニティは、やはり背伸びして成熟することや、天才や死を受け入れるという性格の……すごく俗っぽく言えば、頭の良い……コミュニティになるんでしょう。
このあたり、東・宇野両氏が半世紀スパンで見ているのに対して、せっかちで老い先短い(笑)乙木の方は短いスパンで見たところに内田樹的な思想が入ってきて

そうしたアーキテクト設計者養成は、コミュニティではなく、緊密な師匠=弟子関係が複数錯綜し複々線化した構造の方が、より即効的な成熟や友愛を育むに良いんじゃないか

とか思ってますが。
このあたりをおそろしく低俗に言うのであれば、要するに乙木の方が《80年代の少年ジャンプ》チックであり、「週刊少年サンデーセンスは好きだけど、やっぱりヤングサンデーが創刊された87年以降はなぁ……(ヤングサンデー創刊以降は、大人向けのマンガが全部、移管しちゃった)」みたいな感じでしょうか。
しまった、全然分かりやすくなっていない。
ギートステイトのイベント、時間ができたら行きたいなぁ……。

海街diary 1 蝉時雨のやむ頃

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