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古橋秀之&秋山瑞人と師匠・金原瑞人、三氏の鼎談から知ったこと二題。「秋山・古橋パロディ事件」と「古橋レンズマン」の件とか…。

読書

ちょっと某企画のために面白エッセイストをリストアップするという作業に取りかかっている。乙木の趣味は非常に古くて、一番好きで読み込んだエッセイストが誰かというと、狐狸案先生・遠藤周作とかドクトルマンボウ・北杜夫になってしまうのである。むぅしかしいくら何でも小学生の時に耽溺していたエッセイストを挙げるというのも乱暴か?
ただここらあたりの「ムチャクチャ頭が良いのだけれども、中学生男子的な視点を忘れないエッセイスト」というのが、好きなエッセイストの基本ラインを作ったような気がする。
とはいえ、そんな自分の趣味ばかりを出してもしょうがないから、思いっきり色んなエッセイ本を買う中で、前に書いた穂村弘とかに当たり始めたわけだけれども、翻訳家・金原瑞人氏の初エッセイ集にラノベ的には意義のある鼎談が載っていたのでちょっと紹介。

翻訳家じゃなくてカレー屋になるはずだった

翻訳家じゃなくてカレー屋になるはずだった


現在、法政大学の社会学部教授&翻訳家をしており、古橋秀之秋山瑞人両氏の師匠で、金原ひとみの氏の父親でもある金原瑞人さんの初エッセイ集である。
海外のファンタジー文学やヤングアダルトを読んでいると、金原瑞人訳のお世話になることが非常に多いし、私自身もライトノベル完全読本において、エッセイを1本依頼させていただいた関係で思い出が深い。その氏が翻訳家になってからの仕事の経緯や日々を綴った本である。
タイトル通り、金原さんは当初はカレー屋をやっていたのである。

一九七八年、つまり大学四年生の十一月、いくつかの出版社を落ちて、卒業後どうするかという決断に迫られた。そこでカレー屋をやることにした。その頃東京にきていた妹と妹の彼氏(わが高校の同級生で、現在、わが弟になっている)を巻きこんで、屋台のカレー屋をやることにしたのだ。そして一か月ほどカレーばかりつくっていた……ところ、大学で卒論の指導教授だった犬飼先生とばったり会ってしまい、「やあ、金原君、就職はどうなったね」ときかれ、「全部だめだったので、カレー屋をやります」と答えたところ、「カレー屋はいつでもできるから、大学院にこないか」と誘われてしまった。恥ずかしながら、当時は大学院がなんのためのものかちっとも知らなかった。いや、そもそも法政大学にいながら大学院があることさえ知らなかった。
「大学院って、何をするところですか?」
「週に二日ほど授業を受けて、あとは本を読んでいればいいんだよ。授業といっても学部の授業に毛が生えたようなものだし、奨学金ももらえるんじゃないか」
「え、こんな就職難の時代に(当時はオイルショックのあおりでかなりの就職難だった)、そんなおいしい話があるんですか」
「ああ、おいしい話なんて、どこにでも転がっているよ」

ってなところからこのエッセイはスタートする。
その金原瑞人古橋秀之秋山瑞人三氏の鼎談が巻末に載っているということで、まぁちょっと企画仕事の範囲を逸脱して購読〜。
いくつかラノベ的にも面白い話題が出ていたのでちょっと引用してみる。まぁ最初にちょっと補足説明をしておくと、このブログでもたびたび触れている古橋・秋山の両作家は、金原瑞人氏が法政大学で行っている創作ゼミ出身ということで、二人にとっての師匠なのである。これに金原を加えた3人以外にも、もう一人か二人ほど出身作家がいたような気がするのだけれども、ちょっとすぐに資料が出てこない。

鼎談■「創作ゼミ」の真実
はじまりは創作ではなく「恐怖小説ゼミ」だった
金原 古橋と秋山はゼミの何期目なんだっけ。
古橋 第四世代くらいじゃないですか、たぶん。
秋山 僕が、その一年あとです。
金原 そうか、じゃあ、最初は創作ゼミじゃなくて、「恐怖小説ゼミ」だったって知らないよね。
古橋 え、そうだったんですか(笑)。

で、すごい中略をした後に、ライトノベル関係者では有名な古橋パロディ事件にかんして書いてあるので、ここのところはちょっと長めに引用。

古橋・秋山がつくった創作ゼミの伝説的事件
金原 秋山のほうは、ほとんどSFオタクだったよね。ガチガチにハードなSFばっかり書いてて、それなりにうまいんだけど、なんかよくわからんぞっていうような。

秋山 あの頃はウィリアム・ギブスンにハマっていたんですよ。
金原 ギブスンだったのかあ。でも、プロデビューしてからは、作風がどんどん変わっていったので、すごくびっくりした。
古橋 秋山くんは、マニア受けするけど大成しないだろうと思ってましたからね(笑)。だった最初の頃の作品は、何が書いてあるのかよくわからない。わからないんだけど、何だかすごい、みたいな感じ。だいたい、読者のことなんか、まったく考えてなかったでしょう。君は。
秋山 うーん、言われてみれば、そういうところもあったかなあ(笑)。
金原 秋山がSF短篇を書いてきた次の週に、古橋がそのパロディを書いてきたことがあったよね。
古橋 例によって「おお、よくわからんなあ」っていう濃いSFだったんで、思わず茶化したくなっちゃったんですよね。大阪バージョンってことで、「かに道楽」の看板とか出したり。
金原 でも、秋山の作品よりそっちのほうが受けたんだよね、ゼミの中では。
秋山 書かれたほうは、なんか複雑でしたよ。
古橋 べつに嫌がらせじゃないから(笑)。それに、ぼくが最初に書いた『ブラックロッド』のベースは、実はあのパロディ短篇なんですよ。サイバーパンクっぽい要素とか、感じの用語にカタカナでルビを振る手法とか、あれを参考にしながら書いたんです。
金原 へえ、そうだったのか。だけど、ああいうことはあとにも先にも一度だけだったから、うちのゼミの伝説的事件としていまだに語り継がれている(笑)。おまけに、非常に残念なことに、その原稿は紛失してしまったから、幻の短篇になってるし。

この話は、たびたびラノベ本絡みに出てくるので、知っている人も多い話ですな。とはいえ、三氏の鼎談のカタチで当時が語られた資料というのはわりと少ないということもあるので、作家志望の人はこの本を一寸読んでみるのも良いかもしれない。
基本的には、翻訳家の仕事というのはどういうモノかというのを紹介するのが、本作の主旨であるため、この鼎談目当てに買うにはちょっと高いかもしれない。
ただ大学における創作ゼミというのがどういうモノかを知る意味では興味深い。まぁようするに切磋琢磨して書いて、読者の反応を見てまた書いてってことしかないわけだけれども。
ちなみに個人的にこの鼎談を受けて衝撃を受けたのは以下の部分。

金原 なるほど。そういえば、古橋の作品では『サムライ・レンズマン』が傑作だと思うなあ。E・E・スミスをよく読んでいるよね。感心した。
古橋 いや、実は企画が決まるまで、シリーズを通して読んだことはなくて、決まってからひたすら勉強したんです。
金原 そうなんだ(以下略)。

そうなんだ(笑)。
いや、マジでこれを読んだ瞬間にイスから転げ落ちてしまった。まぁ、好きだけど全部読んだことがないってよくあることだからな。
この秋から古橋・秋山作品がまた出るという話も聞いているので期待大である。

サムライ・レンズマン (徳間デュアル文庫)

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猫の地球儀 焔の章 (電撃文庫)

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