よしながふみの「大奥」だけじゃ駄目! 山田秀樹「魔乳秘剣帖」は時代小説ファンも必読の傑作

ここしばらく連続でライトノベルに関する暗い話題が連続して出たりしている。あまり詳しい事を書くとヤバイので書かないけど。
で、ちょっと最近、漫画力が落ちてきている事もあるので、それを取り返すべく打ち合わせの後にもうすぐ閉店と聞いた渋谷のブックファーストの漫画売り場に足を運んで、ちょっといままで買ってこなかった系のコミックに手を出す。
サイン会に行くつもりはないけど、「カラスヤサトシ」二巻を買ったり――順番は90番台でした――矢島正雄の「NEWSMAN」とかまとめて結構本を買う。……いやでも気分転換にカラスヤサトシってあんまり良くないような気がした(笑)。なんつーか、情けなさにむかっ腹が立ってくる感じ?
そんな中、意外な買い物としてムチャクチャに面白かったのが、山田秀樹「魔乳秘剣帖」だった。

「魔乳秘剣帖」あらすじ(fromまんが王倶楽部
「乳こそがこの世の理」。
時は太平江戸時代、豊乳は富であり絶対。貧乳は人に非ず。
そんな時代を生みだし、豊乳を守る一族・魔乳一族(まにゅういちぞく)があった。豊乳美乳を育むためのあらゆる術が記されている門外不出の秘伝書を持ち出した魔乳千房(まみゅう・ちぶさ)は理不尽なこの世に立ち向かう。
立ち寄るところで起こる乳を巡る争い。そして襲いかかる刺客。
果たして千房は悪を倒すことができるのか? これは勇気乳と乳と乳……乳しかない物語である。

魔乳秘剣帖 (1) (TECHGIAN STYLE)

魔乳秘剣帖 (1) (TECHGIAN STYLE)


もうなんというか……脱力して死にそうになる設定だ。
要するに柳生一族(やぎゅういちぞく)が、魔乳一族(まにゅういちぞく)になっているわけ。
こんなアホ設定は、古橋秀之の「妹大戦シスマゲドン」、田中哲弥の「大久保町シリーズ」とタメ張る馬鹿設定……ってな感じである。もう全力で馬鹿。こんなのでタメ張っていいのか? 山田秀樹
元々はTECHGIANに不定期連載されたモノをまとめた作品だ。
ところがねぇ……ライトノベルの表紙で馴らした山田秀樹のキチンとした画力が、「乳」ネタ以外は、驚くほどの時代劇の伝統に沿ったキチンとしたストーリーに則っているので、非常に読める作品になっているわけだ。
ジャンルとしては、「世直しモノ」「抜け忍モノ」であり、山田風太郎の正統な血脈を継ぐストーリーで、美少女ゲーム誌に連載されて、むちゃくちゃおっぱいは出てくるけど、不思議にイヤらしさを感じさせていない。むしろアクションフルでコメディチックでありながらストーリーはシリアスな人情モノ路線というのを外していない……人死なないし、日活のエロ時代劇ほど安っぽくない。
1巻には六話掲載されているのだが、その底流に流れているのは

  1. 「一族の跡目だけが受け継ぐ秘伝書」
  2. 「主人公のみがもつ必殺剣」
  3. 山田風太郎的な奇っ怪な忍術」(でもこればっかりじゃない)
  4. 「離れ里の奇祭」
  5. 「大店への押し込み強盗」

といった要素。なんというか、明らかに山田秀樹は時代劇やTV時代劇を読み込んでいるし、ちゃんと見ていると思わせる。
主人公の旅の目的と、剣術の設定も秀逸だ。

主人公の千房は、魔乳の一族の跡目と目されながら、幕府の理不尽な治世に憤りを感じ、魔乳の秘密である「豊乳の技」を世間に伝えるべく出奔。
魔乳の里にすむ剣士は、相手の身体を切らずに乳のみを斬って、巨乳を貧乳にしてしまう剣術を身につけているのだけれども、千房はそれに留まらず相手の乳を自分の乳にして、より自分の乳のサイズを上げてしまう技をなぜか身につけている。
敵を斬れば斬るほど、巨乳になっていくのだ(笑)

えーっと書いていて良いのか悪いのか、判断に困る文章だ。
なんというか昔、富士見書房伊東岳彦・伊吹秀明がメディアミックス作品で、「星方天使エンジェル・リンクス」というのがあった。そこで
大艦巨乳主義
というなんか書くのも恥ずかしいキャッチフレーズがあったのだけれども、なんかそれを彷彿とさせるなぁ……。

大艦巨乳主義 - アンサイクロペディア
大艦巨乳主義(たいかんきょにゅうしゅぎ)とは、1990年代に日本のとある小説家がライトノベルの執筆方針に用いた「とりあえず戦艦に馬鹿でかい乳の美少女を乗っけておけば作品は売れるんだ!」という、思想と考えてもいいと思う。 (→ 大艦巨砲主義も参照)
しかし、この思想は、「貧乳もええなぁ」といった時代の流れによって淘汰されてしまう。
早い話が伊吹秀明 著『エンジェル・リンクス』のコンセプトであり、おっぱいはデカければデカいほどいい、という事である。

いかん、話が大幅にズレた(笑)。
まだ1巻では、主人公の千房が柳生の里を出奔し、それを追う姉・影房との決着がついたについたに過ぎないため、まだまだストーリーとしては始まったばかりと言える。
毎回のストーリー説明の最初についてくる設定紹介のページに出てくる柳生の剣士の中には、明らかに明確な設定のありそうな剣士がいるし、まだ大阪や江戸といった大都市には千房もたどり着いていないため、使えるネタはまだまだいくらでもありそうだ。

  1. 幕府転覆ネタ
  2. 大奥を支配する魔乳の一族
  3. 完成された秘剣「乳流れ」とは?

とか、現在ほのかに張っている伏線だけでも、もうお腹一杯になりそうなぐらい興味深い。
柳生もとい魔乳一族が、大奥を支配しているんですよ! これは「大奥」を書いているよしながふみでも思いつかねーよ(爆笑)
特に1巻で傑作なのが、第三話「怪奇『乳隠し』」である。これはもう馬鹿馬鹿しさと時代劇としての出来の良さに心が震える(笑)
地方の里で行われる殿様観覧で行われる「乳振り祭」。ところがそれに出る予定の娘達が次々と「乳隠し」にあったため、村は大弱り。代わりに主人公・千房が出る事になるのだが……といった話。

「乳振り祭」というのはこの国のお殿様がお始めになった
地域を替えて毎年行っている行事でして
乳自慢を競わせその美乳を豊乳の神様に奉納するという
それは目出度いお祭りですじゃ
アホだ…アホ殿だ。アホ民だ。

もうアホ過ぎる。
でもねー、本当にアホの限りを尽くしているんだけど、このお殿様であるところの藩主・三重鳩宗がね、ストーリーの最後の最後とかで格好いいワケよ。幕府隠密の命令をそれとなく逆らっちゃったりしてね。
こういう展開もこれまた「世直し」モノのフォーマットであるだけに、知識があればあるほど面白いってコトになるわけですね。
連載の方ではようやく第二部に入ったそうなので、個人的には
「吉原ネタ」「鎌倉の東慶寺ネタ」「妖刀ネタ」
とかいった定番を盛り込んでいってほしい。時代劇だからいくらでもネタがあるよね。
なんというか、よしながふみの「大奥」を読んでるだけではイカンとつよく思った次第である(褒めすぎ?)
魔乳秘剣帖1巻 「乳こそがこの世の理」 ポロリもあるよ - アキバBlog
山田秀樹さんのサイト。重版がかかったとのこと。
こんちき堂/こんちきblog おっぱい再出荷です。