なぜオタクは子供向けコンテンツから卒業出来ないかが、相対的な視点でわかる「ジャニヲタ 女のケモノ道」

乙木が好きな芸能モノコミックに渡辺多恵子の『はじめちゃんが一番!』がある。著者の代表作『ファミリー!』はちょっとバタ臭すぎてあまり好きではなかったのだけれども、この『はじめちゃんが一番!』にはムチャクチャはまった。
はじめちゃんが一番! - Wikipedia
簡単に粗筋を説明すると、岡野家は長女はじめちゃんを筆頭に男の五つ子《あつき、かずや、さとし、たくみ、なおと》を含めた8人の大家族。普通のサラリーマン家庭の岡野家の家計はいつも火の車で、ヒロインのはじめちゃんは小学生の時から財形貯蓄がわかるほどの吝嗇家。恋多き乙女たるべき高校生になっても、生活は逼迫したままである上に、ソバカスだらけの顔に太い三つ編みというイケてないスタイルで恋愛もままならない。ところが五つ子が売れっ子芸能事務所M2にスカウトされ、A.A.O.としてデビューしたことから、和田瑞希・江藤亮からなる人気絶頂デュオWEと知り合いになる。はたしてはじめちゃんは貧乏生活と恋愛貧乏から脱却できるのか?といった話だ。
もちろん、このM2という事務所は現実のジャニーズ事務所をモデルとしていて、フィクションの組み込み具合が絶妙で、ひじょうに読みごたえのある生活・芸能コメディとして成立している。
いまさらながら読み直すと、WEの和田瑞希に恋するはじめちゃんの恋愛妄想の暴走っぷりがある種、時代に先駆け観が絶妙で、もともとストーリーテラーとしての才能のある渡辺の堅実さとアイドル萌えがイイ具合に混じり合っていて非常に楽しいのだ。

はじめちゃんが一番! (9) (小学館文庫)

はじめちゃんが一番! (9) (小学館文庫)


まぁ、振り返るになんで乙木が店頭で『はじめちゃんが一番!』を手に取ったかというと、こーゆーソバカス・三つ編みヒロインというのが好きだったからですね。いやでもこれは正解だったなぁ……。
さて、ジャニーズ事務所をモデルにしている芸能ものであるため、ライバル事務所との確執もある。その中の1エピソードとして、こういうセリフのやり取りがある。

「(おまえたち五つ子は)なんでそんなにファンを大切にするんだ」
「あいつらは、いづれ時が経ったら、なんであんなアイドルファンだったんだろうと自分の過去を恥じるようになるんだぜ」
(うろ覚えなので後で校正)

ま、それにたいして主人公側である五つ子A.A.O.の方は、たとえ未来においてファンであった事を恥じられたとしても、今、僕たちをみてくれている時間を大切にしたいみたいなかんじで返すワケだ。
ま、このコミックが描かれた頃のは、今から17年以上前だからかもしれないが、今となって思うのは
オタクってどんなに時間が経っても卒業しないんじゃないか?
と思わずにいられない(泣)。
先日、某パチスロメーカーの人と会ってきた時に『モーニング娘。』のパチスロが出るというニュースを聞き、いまさらモーニング娘。コンテンツの現在ってどうなんだろうとおもったんだけど、そんなモーニング娘。オタクよりももっと気合いと長い年月の蓄積があるのが、女性による「ジャニーズおたく」、通称ジャニヲタだ。
おそらく、渡辺多恵子が『はじめちゃんが一番!』を書いた頃には、装幀すらしていなかった30代声のジャニーズファンの悲しくも楽しい日々を記した興味深い本。
それがこの度、双葉社から出版された『ジャニヲタ 女のケモノ道』だ。

ジャニヲタ 女のケモノ道

ジャニヲタ 女のケモノ道


現在、腐女子関連本として「隣の801チャン」などがムチャクチャ売れているが、この『ジャニヲタ 女のケモノ道』に関しては、それとは違った香気がある。
なかなか一言で云いにくいが、あえていうのであれば、
彼女の押入をのぞいて、子ども頃の趣味を見つけちゃった感覚
といえるかもしれない。
著者の松本美香はあきらかに腐女子なんだけれども、この本を読むといかにジャニーズというのが、女性の心を鷲掴みにして、しかもそれを十年二十年と離さずにいるかというのがよくわかる。
それはひょっとすると、
なぜ男性オタクが30過ぎてもアニメやゲーム、アイドルから抜け出せないのかという事に対する大いなる示唆を含んでいる……ような感じも受けるのだが気のせいだろうか?
個人的にSMAPについてはもっともっと考えてみたい事がある上で、この本の提示しているファンの有り様というのは貴重な資料である。
まぁ、なんでオタクが辞められないということについては彼氏彼女がいないというのが、いつまでも子ども趣味から抜けられない要因の一つなのだなというのは如実に伝わってくる点もあって必読である(笑)。