ショートショートの神様、星新一の知られざる生涯

もうSF好きが買わずにはいられないノンフィクションがとうとう刊行された。つい昼休みに読もうと思って買ったらそのまま夕方までに一気読みしてしまった。
星新一 - Wikipedia
ショートショートの名手というよりも、日本におけるショートショートというジャンル自体を創出してしまったSF作家星新一の生涯をしるしたノンフィクションである。
まだアマゾンに登録されてないのでタイトルを書いておくと
星新一 一〇〇一話をつくった人」最相葉月(新潮社)です。
お知らせ : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

生涯1000編以上のショートショートを執筆したSF作家、星新一さん(1926〜97年)の作品の下書きや着想メモが大量に見つかった。
「ボッコちゃん」など代表作の制作過程が解明できる貴重な資料で、今日28日発売されるノンフィクション作家・最相葉月さんの評伝「星新一」(新潮社)でも内容が明かされる。
評伝執筆のため最相さんが4年前から静岡県内の星家別荘にあった遺品を整理。子供時代からの作文、日記、手紙など1万点以上が残され、膨大な数の作品関連資料を含んでいた。
(中略)
星作品は文庫の発行部数が3000万部を超え、インターネット社会や環境問題を予言した先見性への評価も高い。最相さんは、「天才のイメージが先行しがちだが、試行錯誤を重ね意表をつく作品を生み出していたことが分かった」と話している。

この記事を見てから、すぐさま書店に電話して、明日の在庫を確認して飛んでいって買ったのだけれどもそれに価する素晴らしい本。

星新一 一〇〇一話をつくった人

星新一 一〇〇一話をつくった人


星新一の優しくてスタイリッシュであるにも関わらず諦念とも絡む作品創出の謎が色々と解き明かされて非常に感銘を受ける。それは父親でなる星一が急死した後に、信じられないほどの負債を抱えていた星製薬の社長として苦労し、人間を誰も信じられなくなっていた時期があったからではないかと著者は推察している。
面白かったのはこのエピソード

父親の経営する鉄加工の工場が倒産して借金の山を抱え、事業清算の後始末が続いていた小松左京は、ふとした事がきっかけで星新一も父親の事業で苦労した経験があることを知った。不渡り手形の話をしていた時だった。新一が、
「小松さん、あんた、手形なんか知ってるの」
というので、知っているよと答えると、こんな話をした。
「こういうふうにするといいよ。払えって持ってくるでしょ。こちは、どれ、ちょっと見せてくださいって渡してもらって、日付のところをもってじっと見るんだ。すると、相手が返せ、といって引っ張るでしょう。そうしたら日付のところが千切れる。手形は無効になっちゃうんだ」

星製薬の御曹司だった星新一がどうしてこんなことを知っているのかと小松がびっくりするところとか、想像を絶する苦労をしてきた事を思わせるエピソードなどが満載だ。
後に講談社で新本格作家を数多く発掘する宇山秀雄氏が、入社してから初めての名刺を星新一に渡したくて誰に会っても「まだ名刺ができていません」といっていたエピソードなど、星新一がいかにスゴかったかというのがよく分かる。
終戦後からのSF史と、それに先行するミステリとの関わりなど色々と見逃せない話が多い。必読!
星新一自身が、父親の事を書いた「人民は弱し 官吏は強し (新潮文庫)」もあわせてよむといい。

人民は弱し 官吏は強し (新潮文庫)

人民は弱し 官吏は強し (新潮文庫)