白童貞としての「間宮兄弟」

黒童貞ものばっかり最近フィーチャーしているけど、江國香織の「間宮兄弟」も好きですよ、ええ。

でも間宮兄弟に癒される女性読者はイヤかなぁ?

「恋愛小説」なのに、恋愛という山のてっぺんに上ることのできない兄弟の物語だ。どこがまずいのか読者にはわかっていて、主人公にはわからない。ここがミソでもある。たいていの作家は彼らのように、華のない男を主人公に据えようとは思ったりしないだろう。まず、意欲というか冒険心が買いだ。
 兄弟の共通の趣味は、先ずプロ野球の観戦。贔屓チームのスコアをつけるほどに熱心だ。映画のビデオ鑑賞、クロスワードパズル、読書。で、イイ歳をして男二人で暮らしている。恋愛経験は共にゼロ。失恋するたび兄貴は酔いつぶれ弟は新幹線を見に行く(って、漫画だな)。彼らはまちがいなく善人なのだけど、関係するのが下手。ぎこちなさは、セックスにも不倫にも慣れっこになったいまどきの関係をこそ疑問視させる効果を生んでいる。
 さりげなくて印象的なシーンがある。大学生と高校生の姉妹が連れ立って歩いている。静かな夕暮れだ。姉が「一緒に散歩していられるのはいまだけかもしれないわね」とつぶやく。別々の生活になるという予感だ。妹は「何言ってんの?」と切り返す。
「だって間宮兄弟を見てごらんよ。いまだにずっと一緒に住んでるじゃん」