PLANETSvol.2と「涼宮ハルヒの憂鬱」座談会

惑星開発委員会の「涼宮ハルヒの憂鬱」座談会が非常に面白い。
Yahoo!¥¸¥ª¥·¥Æ¥£¡¼¥º」座談会善良な市民×成馬01×キクチ
相変わらず青春モノに関する解釈が、非常にクールで楽しい。
ライトノベルと青春モノは直結せざるをえなくなって、双方とも変質していくのは間違いないのだけれども、そういうのを予感させる作品として「ハルヒ」と捉えているのがよい感じ。しかし相変わらず「酸っぱい葡萄」に対して厳しいなぁ。
批評誌PLABETSVol.2は多忙故にちょっとした関わりしかもてなかったけど、ゲラを見た限り、非常に面白かったので宣伝しておく。
第二次惑星開発委員会 PLANETS Vol.2

(前略)
●善良な市民
 結局ハルヒって友達欲しいだけじゃないですが。「不思議ちゃん」って要するにそのキャラを許容してくれる人間関係がないと成立しないものですからね。
 SOS団って結局やっていることは、その辺のありふれた文系サークルと一緒なんですよね。夏休みに合宿したり、草野球したり、自主映画撮ったり。実は等身大の青春で満足しているんですよ。
 この辺、谷川流ってよくわかっていますよね。ハルヒも、この作品が好きなオタク男子たちも、「酸っぱい葡萄」状態にあるんですよ。 本当は「等身大の青春」に憧れているんです。でも、残酷な話だけどおそらくはスペック上の問題で、それが手に入らない。でも、そんな悔しさを素直に認めたくないんですね、プライドが邪魔して。それで「私は(俺は)日常で手に入る程度のロマンでは満足できない、非日常的なロマンじゃないと満足できないんだ」と、自分で自分に言い聞かせている。
 だから、このシリーズって複雑な気分にさせられるんですよね。
 「この作者ってよくわかっているなあ」とも思うし、「ここまで言い訳しないと等身大の青春が欲しいって素直にいえないのか」と思う。
(中略)
●キクチ
 僕は最終回を見て、素直にキョン=あたるだと思いましたね。両者とも新世界を拒否して元の日常に戻るところまで同じ。この理想世界(虚構)と日常(現実)の相克というテーマは、ビューティフルドリーマー→エヴァ→ ハルヒという一連の作品で継承されています。

 恋愛関係に到達できないこと、これはラブコメの存続条件です。BDで現実に帰還したあたるは、ラムとのキスを拒否することで、これまで通り「好きな人を好きでいるためにその人から自由でいる」ことを選択する。ラムの「責任とってね」という言葉を裏切るわけです。あたるは成熟することなく逃走を続ける、永遠のスキゾキッズ(笑)であることを選んだ。
 一方、ハルヒの最終回では、キョンは夢の中でハルヒにキスをして、ハルヒは翌日ポニーテールでそれに応える。これは、付かず離れずのラブコメの先にある、具体的な恋愛関係を予感させます。BDでたどり着けなかった「終わりなき学園祭前日」の向こう側にある出口が、ハルヒでは見えかけている。
 特に象徴的なのが、ハルヒでは進級があるといる点です。つまり、3年が経過したら必ず卒業する。そのとき二人が恋人同士になっているかどうかは分かりませんが、いずれにせよ、80年代ラブコメの「終わりなき日常」、『うる星やつら』のような永遠の追いかけっこをやる気はない、ということでしょう。
●善良な市民
 ああ、なるほど。
●キクチ
 で、この「逃走」というテーマをまったく別の形で捉え直したのがエヴァ(注8)です。もちろんラブコメの主人公のような、責任からの軽やかな逃走ではありませんが、「逃げちゃだめだ」という台詞からも明らかなように、シンジ君もまた現実から逃走している。劇場版に至っては、「ミサトさん綾波も怖いんだ」なんて言って昏睡状態のアスカに泣きついてます。情けない限りですが、女性と正面から向き合うことを拒絶しているという点では、あたると同じですね。
 そんなシンジ君ですが、最後にはあたるやキョンと同様に、「補完された世界」ではなく元の現実世界を選び取ります。そのときの台詞が「でも、僕はもう一度会いたいと思った。その時の気持ちは本当だと思うから」。これはあたるの「それなら大丈夫。お兄ちゃん会いたいひといっぱいいるから」という台詞、またキョンの「俺は連中ともう一度会いたい、まだ話すことがいっぱい残っている気がするんだ」という台詞と呼応してます(というか「まんま」ですね)。
 ところが現実に帰ってきた矢先、シンジはアスカに「気持ち悪い」と言われてしまう。これは確かに90年代のオタクのトラウマですが、同時に、男女が真に向き合うということの本質でもあります。あたるは他者(ラム)と向き合う関係から逃走したが、シンジは他者(アスカ)と向き合って傷つけられた。これがBD(80年代)から見たエヴァ(90年代)の達成です。
 そしてハルヒ(00年代)では、そこからさらに二人が歩み寄る関係を示した。現実に戻ってきたハルヒは、キョンの好みのポニテで登校し、キョンはそれに「似合ってるぞ」と声をかける。間違っても「気持ち悪い」とか言わない(笑)
 これを見たときには「時代は巡ったなあ」と思いましたね。ハルヒがエヴァと比較されることが多いのも、10年ぶりの話題作というよりは、エヴァの「気持ち悪い」を乗り越えた作品と受け取られたからでしょうね。現実に帰還し、かつヒロインとも分かり合えたという。
 もっとも、90年代っ子の僕としては「日和ってんじゃねーよ」というのが正直なところです。「キョンの帰った先は結局SOS団とゆるゆる遊ぶラブコメの世界で、単なる退行だろ」という批判を、無粋とは知りつつ、いちおうしておこうかな(笑) 。
(後略)

この座談会に興味のある人は、夏コミ発売の批評同人誌PLANETSVol.2を参照のこと。
すでにVol.1は売り切れており、あまり通販もしないらしいので頑張って入手してください。
第二次惑星開発委員会 PLANETS Vol.2
コミケでの発売は8月13日西地区ほ−12a「惑星開発委員会」とのこと

PLABETSVol.2 目次

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インタビュー

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【企画】

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