モテモテ探検隊! 第一回「ワニのぬいぐるみでモテモテ」

Exciteブックスの非モテの文化史が本当に面白くてしょうがない。
エキサイト商品情報
demiさんより、文化系女子って数限りなく派閥があるけど、世間的にビジブルなのは下北系ヤオイだけなのかも」http://www14.big.or.jp/~onmars/data//2005/06/02.html)と指摘を受けて、「あ〜、オイラは本当に極端で女子というものが分かってないなぁ。もっと見聞を広げよう」と思っているのだが、なかなかうまくいかない。慶応SFC中退女子やAD女子との呑み会はこなしたので、次はどんな女子にしよう(←やはり何かを勘違いしている)
電車男」ブームとか、40才童貞映画なども含めてかなり知名度が上がってきたけど、半面、自分にとってインヴィジブルで分からないものがある。それは何かというと「先天的モテモテの世界」だ。
オタクやサブカルを突き詰めていって、「クリエイターとなってモテモテになる」というのは、身近に例もいて分かりやすい。たとえ付きまとってくる女子が、「創作を邪魔するファン気質女子」から「ストーカー女子」を含んで危険なほどにバラエティに富んでいるとしてもだ(笑)
だから非モテの文化史はわりと理解しやすい。実際、現在、ネットに耽溺しているような層から最も理解に遠いのは、「非モテ」ではなくて「モテ」なのではないだろうか。いや、「モテ」のレベルを遙かに越えた「先天的モテモテ」こそが、実は知らねばならねばならないのだろうかと思ったのが、この稿を起こした契機である。
どうも、「モテモテ」というフレーズを聞くと頭の中に浮かび上がってくるのは、神聖モテモテ王国だ。でもフィクションだし……大体、モテてないし。
では、ノンフィクションで、「中高生のときにモテモテ」というのはあるのだろうかと考えてみる。身近の友だちの中には「モテ」ぐらいのスポーツ少年や似非POPEYE少年はいたけれども、「モテモテ」となるとなかなかいない。やっぱり「モテモテ」というくらいなら、二桁は難しいとしても5人以上からモテないといけないんじゃないかなぁと思う。
理想をいえば12人以上のタイプの違う女子からモテるというのが、必要にして十分の「モテモテ」と言えるのではないだろうか? 海外ではあまり参考にならないから、出来れば日本のエッセイとかで「モテモテと非モテ」について語っているのがないかなぁと探してみる。
中島らもだ。エッセイに「モテを越えたモテモテの世界」と、「非モテの世界」がかなり書いてあったはず。今回は目的にあうエッセイから「モテモテ」について抜き出しつつ書いてみようと思う。やはり村上知彦との有楽町ガード下の飲みになるだろう。
ことは中島らもと「明るい悩み相談室」の編集協力をしていた村上知彦が、有楽町のガード下で飲んでいるところから始まる。
村上さんのあまりに長いマツゲやら、物思いが深そうに髪をかき上げる仕草に、突然な「モテ少年のなごり」を発見したらもさんは、非モテ暗黒時代のコンプレックスに操られるがままに「こいつは、若い頃、一万円札と女の子からのピンクの便箋をヒラヒラさせたことがあるに違いない」と、現在話している文学談義とは無用なことを想起してしまう。
そう言えば村上知彦も関西ではお坊ちゃんの通うエリート男子校の出身だったなぁ。
そのどす黒い怨念に流されるままに、らもさんは
「話かわりますけど、村上さんて、高校生の頃、モテました?」
と聞いてしまうのだった。その時すでにらもさんの声は、乾いていて半ば裏返っているのである。

いやあ、モテましたねえ。ま、とにかく数だけ揃えてるっていうか、不自由してないっていうか。文化祭のときなんか、もう女子校の招待状が二十校くらいあつまってねえ。そんなにあっても仕方ないんですけどねえ。ま。モテへん奴に見せびらかすとかね。

そう、ところが……村上知彦さんは「モテ少年」どころではなかったのである。「モテモテ少年」だったのである。中島らものモテない話は異様に面白いのだけれども、今回の主題はモテモテなのでちょっとその方面はカット。
村上知彦のモテ話を聞いていってみよう。

それでまあ、女の子でもこう役割別にして揃えてあるっていうか、この子とは一緒に通学するだけ、この子とは映画とかコンサートにいく付き合い、で、この子とは電話でしゃべる付き合いといかいう風にね。たくさんいましたよ。
ラブレターですか。きましたよ。手紙できたりもあるし、あとは間接的にというか、その子の友だち通して申し込んできたりとかね。
でも、女の子と付き合うのって、やっぱり付き合いそれ自体よりも、付き合うまでの方が楽しみ多いわけでね。最初にこう何となく噂がつたわってくるっていうか、どうも好かれているらしいというのが、おぼろげにわかってくるときとかね。手紙がきて、会うまでとかね。はははははははははは

もう、この時点で完全にらもさんはグロッキーである。
引退間近のロートルのボクサーが、いよいよ処刑台の第三ラウンドに上がるといった感じ?
村上知彦が高校時代を送ったのは神戸なので、全然、都会派でも男子校でもないオイラとしては、モテない都会の男子高校生が溜め込んでしまうどす黒い思念というのが、どれほど濃度の濃いモノなのかがよく分からなかったりするのだけれども、さすがにこの雰囲気はムカつくよなぁ。
以下、延々と村上さんのモテ自慢は続く。中島らもの雰囲気を察したのかどうか分からないのだが、モテるための努力へと続いていくわけだ。

ま、モテるように努力というか、とにかく目立つようにというのは考えてましたよね。通学にずっと緑色のコート着てたりとか、ワニの人形抱いて学校行ったりとか。学校でもね、机の上には白いテーブルクロスを敷いて、その上に花ビン置いたりとかね。そういうのが噂になって、段々女学校の方まで広がっていくわけですね。そしたら、とにかく、噂になってる男の子と付き合いたいっていう女学生も出てくるわけですね。ま、一種のブランド指向っていいますか。そういうので手紙がきたりするんですね。
そうやって、いっぱい付き合ってるもんやから、鉢合わせして困ったりしたこともありますよ。神戸なんて狭いですから、誰か女の子と歩いていたりしたら、まあ、誰か知った人に会ったりするから、そういうのがすぐパッと別の女の子に伝わってね。別れるとかどうやとか、ややこしいことになって。気ぃ使いますよ、けっこう。はははははははは」

ワニを持って通学! 学校の机にテーブルクロスを敷いて花ビンを置く! どこの異次元ですか?
なんというか、オイラみたいな田舎高校生が考えるような「体育会系のサッカー少年がモテる」とか「ちょっと不良っぽいのがモテる」というのとはまったく違う、超次元世界が「モテモテ」少年のまわりには繰り広げられているといった感じだ。
モテとモテモテの間には、さらに深い川が流れているのだなぁ……。
自転車通学だったもんだから、電車通勤で可愛い女子or素敵な男子を見つけて、通学途中で告白するという感覚がよく分からないので、こういった通学途中にワニのぬいぐるみをもって通学して、他の女子高生……神戸だと神戸女学院・甲南女子・海星女子・小林聖心女子学園……とかにアピールするという手法自体が思いつかない。
なんつーか、オズマ計画のような遠大なプロジェクトに聞こえるのだけれども、それで実効性をあげているのだからなぁ……。
そのあまりの毒気にあてられたらもさんは意識が飛びかけるのだけれども――この時に回想される中島らものモテない話も一読の価値あり――意を決して、村上さんの初体験話へと切り込もうとするのである。

「で、その、つきあってた子たち。全部やったんですか」
「え、何がですか」
(中略)
「ああ、アレですか。アレは僕はオクテやったですから、その頃はまだ……」
「え? やってないんですか。そんなにたくさん付き合ってて。ひとりも!?」
「だいだい僕、初めてキスしたのも二十歳越えてですから
「え? ということは、キスもしなかったんですか。ということは、もちろんペッティングも。AもBもCもなぁんにもなしですか?」
「ええ」
何か、全身の力がフコっと抜けたようになってしまった。それなら僕の方がよっぽど早いではないか。キスなら僕は十六くらいのときにしている。ただし相手はカッパの良和であるが。
「そしたら付き合う付き合うって、いったい何をして付き合ってたんですか」
「そりゃもう、映画みたりとか、お茶飲んでしゃべったりとか」
「そんな程度のことで、別れるのなんのいうことってあるんですか。何を根拠に、前提にして『別れる』とか言えるんですか」
「まあ、そうですね。今から考えたら夢みたいな話ですよねえ」
(中略)
「そういうことをするチャンスっていうのは今から考えたらいくらでもあったと思うんですけどね。相手のOKサインが読めなかったっていうか。……純情やったんでしょうねえ。それに僕、なんかコンプレックスのかたまりでしたらから、自転車に乗れないとか、口笛が吹けないとか、中学になるまでネションベンしてたとか、鉄棒の逆上がりが出来ないとか……。コンプレックスが多過ぎて、心の余裕がなかったんです。要するにエエカッコばかりしてたんですねえ」

そこまで話を聞いて、どす黒い怨念の濁流に流されそうになっていた中島らもの怨念は、あとに台湾ナマズがのこる程度に収まり、もういっぱい村上知彦とのチューハイを飲むのであった。
村上知彦は、モテモテだったのだけれども、この辺りに品の良さが出ているというか、庄司薫の「薫クン」っぽいというか……そんな感じの雰囲気を漂わすと、単にモテても駄目なのかなと言う気がしてくる。旧制高校のノリとでもゆうのだろうか。
コミュニケーションスキルというのは、確かに大事でまずそれを身につけることは非常に重要だなぁと思いつつも、やっぱり未経験なままでのスキルを蓄えても意味がなくて、それを裏打ちする自己肯定とか、なんらかの自信みたいなものがないとモテ/非モテもその先がないのかな? だとしたら知が先走ってしまうタイプの高校生には無理じゃん! 成長スパイラルを積まなきゃ、オタクもサブカルも無理じゃん!
と思わせつつ、この項目は終わるのである。
次はもうちょっと違う実例としてのモテモテを探索してみる予定。次は「六本木野獣の会」あたり。
【参考サイト・文献】
中島らもキーワード辞典/hanadokei web site
’†“‡‚ç‚àu‰i‰“‚à”¼‚΂ð‰ß‚¬‚Ä `‚ ‚é‚¢‚Í’†“‡‚ç‚à‚ɂ‚¢‚ā`vl•¨–¼ŠÓ

頭の中がカユいんだ (双葉文庫)

頭の中がカユいんだ (双葉文庫)


世界で一番美しい病気 (ランティエ叢書)

世界で一番美しい病気 (ランティエ叢書)