劇場版 Ζガンダム第2部「恋人たち」では90年代を幻視させたΖガンダムヒロインたちが刷新される?

今自分の中で史上空前の80年代ブームが来ている。段ボールの奥底から「逃走論―スキゾ・キッズの冒険 (ちくま文庫)」「1984年 (ハヤカワ文庫 NV 8)」「タオ自然学―現代物理学の先端から「東洋の世紀」がはじまる」を引っ張り出して、かつ古本屋巡りをして80年代の雑誌を買い集めちゃっている。何をしているんだろうと不思議だ。セゾン美術館にまでちょっと聞きたいことがあって電話しちゃうし……。
本来の目的は「空っぽの90年代」を自分なりに再構築するためなのだけれども、80年代のΖガンダム関連コンテンツに触れるたびに「本当にこれは80年代のコンテンツなのだろうか?」と、その先進性に驚かされる。
まったく、近時次々出てくるΖガンダム関連書籍やサイト、特にZGUNDAM HISTORICA 0 (Official File Magazine)(講談社)と機動戦士Ζガンダム回顧録Ζガンダムエースのインタビューの類はエッジが効きすぎてるね。中高生には危険だ(笑)
10月公開と言われるΖガンダム劇場版の第二部「恋人たち」ではなんといっても、セカイ系ヒロインに一つのベースを提供したフォウ・ムラサメ生々しいチアリーダー体質丸出しの嫌われ者のベルトーチカ・イルマに注目するべきなのは間違いない。ただもう一人、90年代を生きてきたオイラとしては第二部「恋人たち」では注目してほしい登場人物がいる。
それはサークルクラッシャー体質サラ・ザビアロフ(声:池脇千鶴だ。
Ζガンダム劇場版を見て思ったのだけれども、構成の関係でかなり群像劇的になっているためか女性キャラクターは非常に印象的だった。彼女たちの演出に関して富野監督が非常に丁寧に力を注いでいるのがよく分かる。
そういった意味でフォウ・ムラサメの声優が変わったこと、またサラ・ザビアロフの声優に池脇千鶴を起用したという点は、もっと重視しても良いんじゃないだろうか。旧来の声優が声変わりをしたからという消極的な理由だけではなくて、それを現代的にバージョンアップした上で、富野監督の考えている女性ラベリングをもっと先鋭化(でもTV版のような痛々しさの再生産にはせずにもうちょっと明るさを込める感じで)させようとしているのかもしれない。
劇場版Ζガンダムのエンディングで、フォウとベルトーチカが出てくるため、この両者にスポットが当たりがちだけれども、の中で、富野監督は以下のようにサラ・ザビアロフに関してインタビューに答えている。

−第2部は『恋人たち』ということで、カミーユとフォウ、およびアムロとベルトーチカという、ラブストーリーがクローズアップされていくわけですね。
富野:そうです。当然そうなります。だけどそれだけではないんです。テレビ版『Ζ』を知っていればわかるけど、あればフォウとベルトーチカだけの話ではないでしょう。そこでテレビ版以上にサラというキャラクターがより明確に画面上を占めてきます。そしてシロッコも出てくるわけだから、レコアも具体的に動いてくるわけで、恋人たちとはフォウとベルトーチカだけではないんです。
ZGUNDAM HISTORICA Vol.1 P34より)

ええっ!って感じである。あのサークルクラッシャー体質サラ・ザビアロフをどう描くんだろう? 明らかになんかを凄いことをたくらんでるっぽいよ(笑)
富野監督がサラ・ザビアロフの声優を水谷優子から池脇千鶴に変更したことは、芸能人を使えば芸能記事で取り上げてくれるから広告宣伝になるという事情をはるかに超えた大きな意味を持っているんじゃないかという気がしてくる。
第一部の「星を継ぐ者」の中でさえ、戦争の中で女性を選んじゃうレコア・ロンド机上の論理に踊らされるエマ・シーンを、ソフティケートしつつも丁寧に描くなど、エキセントリックさを緩和するという方針の中で、幾人ものリアルな女性キャラに新たなラベリングをしようとしている辺りが、注目に値すると思う。
でも二部ではそれがもっと推し進められるのだろうか?
単純にアニメキャラとしてみた場合、個人的にはエマやファが好きなキャラなんだけど、もっとも生々しさを感じたキャラクターは、普通ならベルトーチカ・イルマだろうけれど、そうではなくサラ・ザビアロフだった。90年代はこーゆー娘さんが身近でも芸能界でも量産されていた観がある。
サラ・ザビアロフというキャラクターは、設定的には一年戦争時に家族を亡くした戦災孤児。孤児院を出た後はハンバーガーショップに勤め、そこで異例の出世を遂げ、あっと言う間に支店長になってしまう。この事が、グリプスにあるNT研究所の目にとまり、軍へ入隊。その後、パプティマス・シロッコと出会う」(?)という設定だ。
これでニュータイプと言ったら渋谷109のカリスマ店員なんかニュータイプだらけになってしまいそうだけど(笑)
要するに世慣れていないけど生まれながらの演技の才能が注目され、新進劇団の座長に身も心もハマっちゃった田舎娘って感じだ。この例えがわかりにくければ、「ガラスの仮面」で月影先生と紫のバラの人=速水真澄をパプテマス・シロッコが兼ねちゃっていると言えば分かり易いかな? そうだったら心も体も支配されてマヤなんていちころでしょ。
その彼女に対して「あんな男と君はつき合っちゃいけない!」と義憤に駆られた劇団の後輩カツ・コバヤシが絡むワケだから、そのケミカル反応はすさまじく大変なことになるんだよなぁ(溜息) うぁ〜まさに90年代のサークルクラッシャーシーンそのまんまだ。
声質としてはサラ・ザビアロフの前の声優だった水谷優子と、池脇千鶴は違うと思う。水谷優子の方が若いエキセントリックさが出ている感じだ。ただ劇場版Ζガンダムでは、大人キャラのエキセントリックさを明らかに減じつつも、その本質を深めようとしているっぽいので、この声優変更は、そうした富野監督の演出意図には通じる一貫したものなのかもしれない。その流れで考えていくと、池脇千鶴という女優は、実はサラ・ザビアロフにむちゃくちゃ合っているんじゃないかという気がしてる。
それは池脇千鶴の恋愛遍歴がサラ・ザビアロフに似ているからだ。本来的には池脇は第23回日本アカデミー賞新人俳優賞ほか、映画新人賞を次々と総ナメにしている期待の若手邦画女優……だった。けれどどうにも少し変な男に惚れっぽすぎるんじゃないかという部分がある。
そのせいかどうかはわからないけれど、期待の若手女優という意味ではもう、蒼井優にぬかれちゃってるよね……。
最初に熱愛が報道されて、噂になったのは元漫才コンビ・ツインカムの島根定義池脇千鶴の方からべた惚れという話で、はっきり言って映像関係者の誰もが「え〜ッ!」と度肝を抜かれた。
「池脇……、いくらお笑いブームと言っても、それは惚れる相手として違うだろう」と誰もが思った。
ZAKZAK
その意味では現在、付き合っている新井浩文の方が俳優的なキャリアとしても上田より多少はよいだろうなぁという気にはなってくる。でも、付き合うことになった契機が、「ジョゼと虎と魚たち(通常版) [DVD]」での共演だというのであれば、せめて妻夫木聡と噂になるぐらいの器用さがあっても良いんじゃないだろうか(笑)。
サラ・ザビアロフの場合は、明らかに釣り合わない年上の不実な男にだまされて付き合って、カツ・コバヤシからいらぬ横恋慕(笑)を寄せられるところに悲劇の芽があったわけだけど、池脇千鶴も実生活を見ると「いや、それは君には釣り合わないんじゃないだろうか?」と心配されてしまう相手と付き合ってしまう。この辺りが、サラ・ザビアロフによく似ている。
サークルクラッシャーが及ぼす効果は幾つもあるけれど、周辺へ及ぼす悪影響で最悪かつもっとも重要なのは

サークルクラッシャーの周囲への悪の波及効果

「奴は君の付き合うべき相手じゃないだろう」
という感情(愛情、横恋慕)を周囲の複数の異性におこさせること

という部分だ。
こういう感情を周囲に起こさせると、次から次へとサークル内に義憤に駆られた横恋慕野郎やDVやらストーカー(含なんちゃってストーカー)を量産するという、まぁサークル末期的なケミカル反応が頻発するので、非常に香ばしくなってくる(笑)
まぁ考えてみれば、池脇千鶴ジブリアニメの「猫の恩返し」においても

いらん親切を異性にして惚れられたくない相手(猫)に惚れられる。
混迷と不安の世の中で、「イヤな事はみんな忘れて」
猫になってもいいかもね(好きでもない相手に流されてもいいかもね)
→ 猫の国大混乱(笑)

ちょおまえwwそれは、サークルクラッシャーまんまwwwwwwww!という役柄のハルを演じているし……。
まぁサラ・ザビアロフ池脇千鶴では、向かう男のベクトルが「プチ・カリスマ(親父転がしの上手い劇団座長or若手保守論壇の批評家)」「あまりに渋すぎる脇役俳優(得意な役は在日韓国人)か、三流のお笑い芸人」と正反対なんだけれども。
あと、池脇千鶴は仕事と恋に悩んでテンパル演技が、料理人を演じた朝の連続ドラマ「ほんまもん」以降、若い女消防士を演じた「火消し屋小町」などと異様に上手い。
これまた困ったことにサークルクラッシャーがテンパったときによく似てる。

サークルクラッシャーがテンパッたときの心理

わけわかんなくなって意味わかんなくして誰も理解しないで誤解ばっかり生んでへんてこになってめちゃくちゃになって散開してしまえばいいのにという気持になる。

うわー - 日日≒日キから引用。*1

う〜ん、まさに十八番だ。これを可愛らしく演じきれるところが池脇千鶴なワケで、実はサラ・ザビアロフとは、スゴイはまり役なのではないかと戦々恐々としている毎日です。サークルクラッシャー伝説がここに!

要点だけを描こうと思っても全然時間が足りないなぁ……。Ζガンダムが80年代に幻視した「90年代の現状認識」は凄いねという話の一部でした。

池脇千鶴がいかに富野監督好きなアダルトチルドレン演技や、共依存状態の女性性が大得意かは以下の作品を参考にしてみること……。

さぁ、サラ・ザビアロフが凄いぞ!

ジョゼと虎と魚たち(通常版) [DVD]

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digi+KISHIN DVD 池脇千鶴

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*1:余りに状況をよく表現しているのでついつい……。吉田アミさんはサークラの気持ちがよくわかるなぁ(笑)「みんな星になっちゃえ!」というイデオン症候群と言っても良いけど。