ライトノベル業界雑感と来年以降の展望 その1

今年も残り一週間を切って、いくつか最後とも言えるニュースが入ってきた。この二つが解禁になるまで今年のライトノベル業界総括と来年の展望が書けなかったが、期を一にして二つとも解禁になった。
そこでそれを書きながら来期への展望予想をしてみよう。
あ、画像はスペリオール連載の吉田戦車「戦車映画」から。今週のスペリオールは色んな意味で凄くて語りたいこともあるのだが、それはまた明日にでも。

桑島由一、初のライトノベル新聞連載の開始


神様家族」「南青山少女ブックセンター」などで活躍中の桑島由一が、毎日新聞「まんたんブロード」にて、「神様家族」の番外編の連載を開始する。ライトノベル作家ライトノベルを新聞連載するのは、日本初。「まんたんブロード」とは毎日新聞がフリーペーパー形式で月刊新聞。月刊とはいえ<毎日新聞>のロゴが入っており、将来的には日曜版などといった形で新聞購読家庭への宅配も企画されている。
ライトノベルというのは、「コミック誌を持つ総合出版社が、ある意味マンガ的な手法を用いながら、多くは書き下ろし文庫形態で発行するモノ」という暗黙の定義があったかもしれないが、その枠組み自体が旧来のモノになるのではないかというのを予感させる。
また桑島由一も、「もえたん2」に置ける小説執筆など、明らかに旧来までのライトノベル作家とは違った幅広さと視野をもってメディア展開をしつつある。
有川浩のハードカバー単行本「空の中」が好調に売れつつある中、今年一年はライトノベルがいかにライトノベル的な出自を捨てないままに一般へどれだけアピールできるのかというのが一つの業界指標ではないかとオイラは考えていた。その中で電撃はハード単行本への再進出というプランニングを見せたが、わずか創刊2年目でありながら、急速に売上を伸ばしつつあるMF文庫Jは、新聞小説への進出という可能性を開いた。
今まで「ライトノベルとはこういったモノだ」とされてきたビジネスモデルは、多分、新聞やTVなどを巻き込みながらまったく新しいステージに進のではないかというのを予感させる出来事ではある。

桜坂洋S-Fマガジン読者賞を受賞

一昨年の秋山瑞人「俺はミサイル」、昨年の小川一水「老ヴォールの惑星」に続いて、今年のS-Fマガジン読者賞を桜坂洋「さいたまチェーンソー少女」が受賞した。
ちなみに今年度S-Fマガジンに掲載された短編は下記の通りである。

菜園す&Fiction雑記帖を参考に作成
1月号
「王の歌う日」草上仁
2月号
マルドゥック・スクランブル“―200”」冲方丁
ラギッド・ガールUnweaving the Humanbeing」飛浩隆
「小説探偵(ノベル・アイ)GEDO 第一話 霊銀」桐生祐狩
「Pシフター」草上仁
3月号
「ピックポック」草上仁
「線によるハムレット浅暮三文
「カメリ、エスカルゴを作る」北野勇作
4月号
マルドゥック・ヴェロシティ Prologue & Epilogue」冲方丁
「幸せになる箱庭 A Happy idiot's universe」小川一水
「時分割の地獄」山本弘
6月号
「あこがれ 博物館惑星・余話」菅浩江
「海原の用心棒」秋山瑞人
7月号
「夢幻泡影 第1章 バレエ・メカニック」津原泰水
「イジュティハードの門」林譲治
8月号
「小説探偵(ノベル・アイ)GEDO 第二話 妖蛾異人伝」桐生祐狩
9月号
「さいたまチェーンソー少女」桜坂洋
10月号
メムノン佐藤哲也
「カツブシ岩」草上仁
11月号
「箱船の行方」石川喬司
「百七十三階のラフレシアが咲いた」林巧
12月号
「地球の裏側」藤田雅矢
ワークシェアリング」草上仁

S-Fマガジンを読んだ中では、桐生祐狩か飛浩隆佐藤哲也あたりが取るだろうと思っていた。ただ発表された短編の中で、桜坂洋「さいたまチェーンソー少女」は、「新世紀エヴァンゲリオン」「ブギーポップは笑わない」に始まった、ここ数年来の「セカイ系」「キミと僕」ブームに対してもっとも積極的に切り込んでいって内部から解体しようという意欲作ではないかと思ってオイラは読んでいた。
ただSF読者というのは、かなりコンサバティブな部分を持っているので、「さいたまチェーンソー少女」の指向性は伝わりにくいのではないかと思っていた。なぜならばそれはある意味でライトノベルやミステリの若手作家が書いている<ライトノベル>領域での話であり、ある種、SFマガジンのメインフィールドとはかなりかけ離れているからだ。
にもかかわらず、受賞してしまった。もっともSFマガジンの主要読者が「さいたま」をオイラの様なライトノベル的視点で捉えているかというのはまた別問題であり、この部分は可能だったら早川の塩澤編集長にも聞いてみたいと思う。
ただ秋山瑞人小川一水桜坂洋と続いてきた流れが確立されたのは大きいと思う。来年には古橋秀之新城カズマがそれぞれ早川文庫JAでの刊行を予定している中で、かなり大きな領域でのSFの今後をライトノベル出身の作家が引っ張っていくというライン目算と、作家の世代交代がライトノベル出身作家を巻き込みながら進むという構図は、無視できないのかなぁ〜と思っている。

来期展望

年頭、今年のライトノベル業界を一番引っ張っていく可能性を見せ、さらに今期の実績とともに来期への展望を見せるは、西尾維新うえお久光、そして今年角川系でデビューする新人作家だと思っていた。ところが、年末になって振り返ってみると来期への期待を最も受ける形になったのは、ゲーム業界から来た「空の境界奈須きのこに、新聞連載をはじめる桑島由一、SF界から認められつつある桜坂洋となった。ある意味、ライトノベルのメインストリームとは違う流れから来た作家となった。
あ〜、かなり長文になってきたので、来年度以降こんなことがおこるんじゃないかという予想はまた明日にでも。
くそ、舞-HiME感想を書く暇もない。