「ISBN:4336047480:title」が面白い。いじめ問題にも効く(?)必読の名著。

いったい発売されるのがいつなのかと待ち続けていた「ハイスクールU.S.A.―アメリカ学園映画のすべて」(国書刊行会刊、長谷川町蔵山崎まどか共著)がとうとう発売された。
いや、もうこの本を待ち続けて先月末から書店通いを続けていたのだけれども、ようやく手に入れたよ。
結局、書店の店頭に並ぶ前にバックヤードから書店員さんに出してもらった。
忙しいところをホントすみません。でも手に入れたら一気呵成に(とりあえず本文は)読んだ。とても面白い本である。

ハイスクールU.S.A.―アメリカ学園映画のすべて

ハイスクールU.S.A.―アメリカ学園映画のすべて


映画写真を多用しているのと、300Pをこえる大著であるため、本体価格も2100円になってしまっているが、アメリカ学園映画のすべてを網羅した空前絶後の本ということで、値段以上の満足感を得られること間違いナシの非常に出来の良い本になっている。
学園モノ大好きなライトノベル読者から、ガーリー少女、アメリカ映画大好きのボンクラ(←最近、俺の中で大ブームの映画秘宝病ですね)まで必読の名著である。
◆米高校生生活のほぼすべてが解る
アメリカに置ける学園生活という、基本的には日本からは縁遠い状況をすべて説明しようとした結果、単に映画情報だけではなく、「米高校生の進学事情」「アメリカン・フットボール」「高校生ファッション」「学園映画音楽」「ゴス文化」「フラタニティ」「アメリカ若手俳優ゴシップ」etc.までもフォローした、ちょっとした文化事典になっている。
そのため、何処をめくっても新しい発見ばかりで本当に目を開かさせるところが非常に多い。二日ぶりに家に帰ってきて倒れるように寝ようと思っていたのだけれども、まだ本の脚注をすべて消化しきっていなかったので、パソコンの前で首っ引きになりながら読んでいたら徹夜してしまった……何をやってるんだ俺は……と思いつつ、この文章を書いている訳なんだけれども。
サリンジャーよりも《イノセンス》な、カート・ヴォネガット・ジュニア
感心させられたトリビアの一つに「学園映画では、『ライ麦畑でつかまえて』よりも『スローターハウス5』の方が支持が多い」というものがあった。サリンジャーよりもカード・ヴォネガット・ジュニアの方がねぇ…。というのも、『スローターハウス5』の歴史を俯瞰するような理不尽な諦念というのが、日本よりもキツイ《学校内階層社会=スクールカースト》や、《モテ非モテ問題》に悩む高校生に、俯瞰的視野を提供するからなのだそうだ。ちょっとこの視点にはうならされた。人々が次々と性格改造を受けていくホラー映画『洗脳』という学園映画では、ズボンの後ろポケットに『スローターハウス5』を入れている男を見て、主人公はその人物の正気を確信するのだそうだ「狂っていたらヴォネガットなんてよまない!」なんじゃそりゃ(笑)
キルスティン・ダンストは、ようするにベル・ダンティ?
それから、俺にはどうしても理解しにくかった「キルスティン・ダンストの魅力」が、アメリカに置いては気の弱い文科系男子に自分から告白してくれるヒロイン――ようするに「ああ女神さま」におけるところのベル・ダンディの様なヘタレ文系男子の女神というキャラアイコンなのであるというトリビアも感心させられた(ま、ベル・ダンディに例えてるのは俺だけど)。個人的には「なんか芋っぽいなぁ」と思っていたのだけれども、ガーリーからヘタレ文化系男子の女神まで演じられるのだそうだ。どこのヘルシー女子大生だ(苦笑)。ただこういう記述を見たら、もー見なくていいやと思っていた「エリザベスタウン」を見なきゃ行けないような気がしてきたから、その影響力恐るべし。
コロンバイン高校銃撃事件のビフォー・アフター
アメリカの高校生にとっては911に匹敵する大事件だったわけだが、その事件の詳細、また映画や書籍にどのように取り上げられたかということまで詳述してある。なかなかココまで読めるモノは少ないので非常に参考になった。一応、下記にはwikiの記述も参照しておく。
コロンバイン高校銃乱射事件 - Wikipedia
ヤングアダルトものの解説書には、なかなかこういった世間的な事件に関して入れるのは勇気がいることなのだけれども、例えば日本のライトベル小説に置いてもオウム事件の影響などが垣間見られるモノもあるわけで、こういう叙述があると見渡せる範囲と深度が大きくなる。この部分は特に興味深く読むことができた。

FastTimes at WesterbergHigh!(アメリカ学園天国)より引用
長谷川:しかもいちいちギャグ入りで。結局、約320ページ、レビュー120本以上というボリュームになっちゃった。これからも学園映画についての本は他に出るかもしれないけど、これ以上凝った本は出ないはずだよ。質的にと言うか物理的な意味で出版が許されないと思うから。でも”カルト映画ガイド”と誤解されたくはないな。本国ではメジャーなジャンルだし、いわゆる映画オタクは読者として想定していない。映画と同じくらいロックや小説にも触れているから、そうしたもの全てが好きなティーンに是非読んで欲しいな。
山崎:ここ最近のサブカル本にありがちな、同世代だけに向けた内向きの本じゃないしね。読むところが多すぎると思ったら、とりあえず注釈もコラムもすっ飛ばして対談部分だけ読んでくれればいいよ。確かに社会学や文化人類学的な視点を取り入れて、上の世代にも受け入れてもらえる作りにはしているけれど、基本はすべて「今、自分を取り巻く全ての事柄に違和感を感じている」背伸びしたい子どものために書いた本だから。
長谷川:内向きの本じゃないという意味ではもうひとつ、最近のドメスティックな傾向に逆らって、日本のアニメとかマンガ、映画との比較や差異について一切書いていないというのがある。でも別の視点から見ることで自分が立っている場所が初めて分かると言うことは多分にあると思うんだよね。ここで扱っている問題と同じことが日本でも起こっていると思うし。
山崎:確かに、イジメ問題と必修科目未修問題については、雑誌やワイドショー見るよりも、この本の八章を読んでくれって感じよね。今こそ日本中のティーンが『今夜はトーク・ハード [VHS]』と『ヘザース』(ヘザース?ベロニカの熱い日?【字幕版】 [VHS]で、良いのかな?)を見るべきなんだわ!

上述の引用のように、本の中では日本の映画・アニメ・漫画コンテンツとの比較や、現状での日本の社会情勢との比較などもあえて行わないようにしている。そういった比較は読者に委ねられている。けれども見ていてやっぱり想起するのは、現在の日本でのいじめ問題とかとどことなく重なるアメリカ・ハイスクールでの《階級差別》《グループ差別》だ。
刊行が遅れたことで、はからずもこの教育問題がまさにホットな話題になっている96年年末にぶち当たってしまったわけだ。それに対する啓蒙的な話題は一切書いていないけれども、だからこそ響く部分もあるような気がする。かつて高校生だった大人から現役の高校生まで勧められる米映画の教養本として画期的である。
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saltwatertaffyの日記
FastTimes at WesterbergHigh!(アメリカ学園天国)

今夜はトーク・ハード [VHS]

今夜はトーク・ハード [VHS]


ヘザース?ベロニカの熱い日?【字幕版】 [VHS]

ヘザース?ベロニカの熱い日?【字幕版】 [VHS]