年輩クリエイターの戦争モチーフを分析してみる

いやもう年末なので、色々とお世話になった方たちへの挨拶回りなんかもしちゃって、それで忙しかったりもするのだけれども、新城カズマさんやるりあ046さんと個別に話している時に出てきた、「年輩クリエイターが自作に描く戦争モチーフ」に関して簡単にまとめてみる。
mixiの方で、ライトノベル作家さんとかとも盛り上がった話題。

手塚治虫「燃える女」

手塚治虫は1928年(昭和3年)11月3日生まれ。
手塚が青年時代に空襲で悲惨な目にあったことはよく知られている。空襲体験については「紙の砦」「カノン」などに書かれている。そのためか、手塚治虫のマンガには、ほかの漫画家には滅多に見られない表現が多い。
手塚治虫の戦争モチーフと思われる一つが、「燃える女」だ。
鉄腕アトム」にせよなんにせよ、とにかく「燃える女」「溶ける女」というのは、手塚の漫画内で多用されるモチーフだ。
これはおそらく空襲体験の中で、実際に女性が燃える様を目撃してしまい、それがトラウマになっているからだろう。

富野由悠季「自らの身を爆弾や楯と化す特攻」「故郷を荒廃させる本土決戦」

富野由悠季は1941年11月5日生まれ。
富野由悠季の作品には、「特攻」、あるいは「特攻」に類似して、自らの機体を楯にして仲間を守るパターンがよく出てくる。
そのもっとも顕著な例が、機動戦士ガンダム(TV版)だ。ちょっと列挙するだけでも、スレッガー・ロウマチルダ・アジャン、ウッディ・マルデン、リュウ・ホセイ、ククルス・ドアン(生き残るけど)、クラウレ・ハモン、ランバ・ラル(モロに「ランバ・ラル特攻!」って回があるし)、ララァ・スンガルマ・ザビイセリナエッシェンバッハ……と「特攻」(あるいは特攻防御?)みたいな奴らだらけである。
考えてみるに、ガンダムがジオングの顔を打ち落とした、ラストシューティングも、アムロがプログラムしたガンダムを突っ込ませたわけで、特攻といえなくもない。
「自身の身を爆弾と化して敵に当たる」と言うモチーフへの富野の偏愛は、ザンボット3での「人間爆弾」や最終回近辺の話題にも度々出てくる。
ただガンダムは途中打ち切りであったため、サイド3での決戦まで描かれなかったが*1、もう一つの富野由悠季の戦争モチーフが、「本土決戦」である。これもまた「海のトリトン」以降、「ザンボット3」「伝説巨神イデオン」etc.と延々と描かれ続けていることは注目しておいた方が良い。
まぁ……それが、福井晴敏にまで伝染しているというのも忘れてはいけない。

宮崎駿「崩壊する巨大建築物・機械からの主人公たちの脱出」「廃墟を覆う自然」

宮崎駿は1941年1月5日生まれ。
宮崎駿が戦争のモチーフとして描くのは、「崩壊する巨大建築物・機械からの主人公たちの脱出」「廃墟を覆う自然」だ。
「太陽の王子ホルスの大冒険」以降、「未来少年コナン」のインダストリアやギガント、「ルパン三世 カリオストロの城」のカリオストロ城、「天空の城ラピュタ」でのラピュタ、「魔女の宅急便」での飛行船と時計塔、「もののけ姫」でのダイダラボッチなど、宮崎アニメのクライマックスでは、巨大な建造物が崩壊する時に、主人公とヒロインがそこから逃げ出すと言うモチーフが多い……というか、ほとんどそれがすべてである。
もっとも、これは東映アニメーションは「銀河鉄道999」も含めて、わりと崩壊する建造物からの脱出が大好きだったりする。とはいえ、宮崎駿は、この「崩壊する巨大建築物・機械からの主人公たちの脱出」というモチーフを偏愛している。
それは、宮崎が疎開先の宇都宮で空襲を受けたときに叔父の運転するトラックで宮崎一家が避難した際、知人とその子供の同乗を断って見捨てたことがトラウマになっているかららしい。「崩壊する街からの脱出」が、宮崎のその後の人生や作品に大きく影響を与えた訳だ。
そして、「崩壊した街」を、緑や海といった自然が覆い尽くすというのが、宮崎駿のパターンである。

永井豪石川賢ダイナミックプロ空爆する巨大ロボ」

永井豪は1945年9月6日生まれ。石川賢は1948年6月28日生まれ。
永井豪石川賢……あるいはダイナミックプロの……大好きな戦争モチーフは「空爆」である。それは「空爆する巨大ロボ」「空爆ロボ」と言っても良いかもしれない。
まず最初はマジンガーZに出てくる、ブロッケン伯爵の飛行要塞グールだ。それから超爆ロボ グロイザーX。そしてSF人形劇のXボンバー。ゲッターロボ號の漫画版では、世界各国のロボットの中には次々と空飛ぶ空爆ロボが出てくるし……。漫画にのみ登場する既知の最強のゲッターロボ「ゲッターエンペラー」は見た目が、そのまま空爆ロボットだ。
とにかく、ダイナミックプロは「空爆ロボ」が大好き。どっちかというと子供は空爆よりもドッグファイトが見たいと思うんだけどね。
ダイナミックプロの面子は空襲体験がないから、B29を連想させる「空爆ロボ」を、そのまま正義の味方にできるのかもしれない。ダイナミックプロが、スターウォーズのXウイングを描くと、それがなぜか超巨大爆撃機「Xボンバー」になるし(笑) それドッグファイト出来ないじゃん!
考えてみれば、ゲッターロボGの必殺技「シャインスパーク」って、絵づらからして、「超精密爆撃」まんまだというのは、覚えておいた方が良いと思う。
マジンガーZの主題歌「空にそびえる鉄の城」ということを含めて、巨大な人型のモノが空から攻めるのが大好きなんだろうけど、それが空爆にまでいってしまうと、あまり正義の味方っぽくないんだよね。

*1:小説版では描かれる