オール新人作家アンソロジー『原色の想像力』

ぎゃー、東京創元社の「原色の想像力」がとても面白かったので、ブログ記事を書こうと思ったら、下書きが消えてる!
さすがに不貞寝したくなってきた。

役立つ!「写真で読む昭和史 占領下の日本」とちょっと迷走? 「3月のライオン」5巻

◆簡潔で分り易い、水島吉隆「写真で読む昭和史 占領下の日本」

写真で読む昭和史 占領下の日本 (日経プレミアシリーズ)

写真で読む昭和史 占領下の日本 (日経プレミアシリーズ)


 現在、集中的に集めている戦後史の写真資料の一つとして購入したのだけれども、これがまた非常に簡易にして概略がわかるので非常に便利。安いし最近に出た本としては入門編としてベストかもしれない。
 アメリカに接収された建物リストや、GHQが関与したと言われる謀殺事件、極東軍事裁判の判決リストまでがサラリと触れられていて読みやすい。
 ちょっと同著者の本を見てみようかなという気にさせられる構成力の上手さが光る。
 占領直後の概観を見るという意味では、
態度がデカイ総理大臣?吉田さんとその時代

態度がデカイ総理大臣?吉田さんとその時代


もとても読みやすくてお薦め。僕はこれを読んでいて、白洲次郎以外に何人もの魅力的な脇役を見つけられた。早川いくをの語り口の勝利だろうか?
◆3月のライオン 5巻
3月のライオン 5 (ジェッツコミックス)

3月のライオン 5 (ジェッツコミックス)


 個人的に羽海野チカの「3月のライオン」は、結構、読むのに難渋しているシリーズの一つ。「ハチミツとクローバー」では描ききれなかった【天才の人生】みたいなのを描こうとしているのはわかるのだけれども、そのために主人公の周りに置いたあるガジェットが、あまりに主人公にとって過保護?な感じがするよーな。
 今回、主人公の敵役だった後藤棋士に「実は難病の妻が居ます」という設定が明らかになる。天才棋士・宗谷冬司には「京都」、島田開には「天童」とはまた別の意味で、地縁的な家族愛がありましたみたいな形になってしまう。う、うーむ??
「民宿雪国」とは違う意味で、作者がどこを目指そうとしているのかが読みにくい……というか、このルートで登頂できるのかな?という不安があるなぁ。
 と同時に「天才の子どもを持ってしまった、血の繋がった父母」という恐ろしく書きにくいが、とても重要な問題提議みたいなものが、設定上において尽く廃されているのがなー。せめて早めに二海堂晴信の両親*1を出さない限りは、幸田家関連で急角度で斬り込んでいくしかないはずなんだけど、このペースだと、「ハチミツとクローバー」の時の森田家事情のように、最終巻でバタバタと書きこむことになりそうなところがちょっと不安か。
「小賢しい天才少年の自意識問題」は同時に、「小賢しい天才少年を持ってしまった両親の教育問題」でもあるんだけど。

*1:二階堂の両親って生きてましたっけ?

[読書]「思想地図β」「民宿雪国」「秘匿捜査」の3冊で伝わってくる現代日本の形

 この12月は色々と本を読みまくっていました。主としてこのミステリーがすごい関連の海外ミステリを読んでいたのですが、退院してから読んだこの3冊が、現在の日本を語るに突き抜けて優れていたので、触れないわけにはいかない。
では年末を「楽しく」過ごすのに必読の3冊レビューを!


◆ショッピングモール特集がスゴイ「思想地図βVol.1」

思想地図β vol.1

思想地図β vol.1


 最初の一冊は東浩紀責任編集の思想地図β vol.1を。私の仕事も絡んでいて、今一番注目しているショッピングモールの考察が非常に興味をひかれる。思想地図にてショッピングモールを扱うということは、速水健朗さんより伺っていたのだけれども、事前の予想をはるかに超える大特集に目を見張る。
「ショッピングモール」というアメリカに端を発する文化研究として興味深い以上に、僕の場合は「街の生成史」として読みといてしまう。というのは小説編集をしていると「街の生成」から始まる一つの文化圏創出自体が、ひとつのストーリーのネタ元になるからでもある。
 加えるなら精緻な街設計自体が、TRPGやらシミュレーションゲーム世代には興味対象の一つでもあるからなんだけど。
 ただ日本におけるショッピングモール自体は、例えば池袋(IWGP)、お台場(踊る大捜査線・安積班)、木更津(木更津キャッツアイ)、下妻(下妻物語)のようには物語の舞台としては大きく取り上げられてはいないような気がする。とはいえ、今この瞬間から5年以内ぐらいには物語に組み込まれるようになるのは間違いないだろう。
東京ディズニーランドの拡張の歴史や、裏原宿の発展史(これはPLANETS Vol.7でも扱われていて本当に面白かった)など、あちこちらら拾い集められる集中的なネタに溢れている点がとても楽しい。
 と同時に、先月連載開始した小説のネタが、まだこの特集には載っていないのを確認してるんだよねー。ふっふっふっ。
 先月から連載開始した、福田和代:著、小林系:イラストの新連載小説の舞台が、東京最後の巨大開発地区「豊洲」を舞台に女性刑事が活躍する警察小説なのだ。連載開始してわずか一ヶ月で大阪朝日新聞生活Gから取材依頼と、小林系ファンからの購読申し込みが来ている。さすがにこの反響の多さには僕もびっくりしています。
小林系さんにはこんな感じで扉をお描きいただきました。
f:id:otokinoki:20101224153144p:image

 そんな豊洲地区に投下されつつある都市計画を鑑みつつ、思想地図β vol.1を読むと、冬休みたっぷり楽しめそう。


◆裏日本の民宿へ繋がる日本の戦後史「民宿雪国」

民宿雪国

民宿雪国


 2冊目は、ショッピングモールや郊外都市とはまったく無縁な、新潟の山奥にひっそりと立つ「民宿雪国」を舞台に、昭和の裏面を描く樋口毅宏のデビュー三作目。
著者の樋口毅宏さらば雑司ヶ谷日本のセックスと、著者の経験を生かした暗黒小説を描いてきた鬼才。信じられないぐらいの暴力とエロスの果てに、清々しい読後感が残る作品を描いてきた。
この「どうしようもなく亜細亜と不可分に結びついている日本」「抗おうとしても抗いきれない人間の業と愛」とかがグイグイと迫ってくる筆力が本当にすさまじい。
 ――ある一人の男が、亡くなった親友の実家である「民宿雪国」を訪ねる――
 という第一章の出だしから、読者はまったく想像のつかないところへ連れていかれる。はっきり言って1章を読んでしまったらノンストップ!
 この「雪国」という民宿の主である、丹生雄武郎(にう・ゆうぶろう)は、後に国民的な画家になっていくのだが、それと雪国、そして「裏日本」と形容するしかない日本の暗部が、昭和の裏面史と分かち難く繋がっていることが段々と明らかになってくる。
 そして読み終わった後、否応なく読者の胸に残るのは「戦後の終焉の自覚」なのだからたまらない。限りなくオゾマシイ闇と一体化しながらも、強い生命力をもっている日本という国の姿みたいなものが、不思議な爽やかさとともにラストに立ち上がってくるのだ。
 その編集姿勢から「知性的」「人工的」という言葉が浮かんでくる「思想地図β」を読んだ後に、憎悪と暴力に彩られたフィクショナルな偽史「民宿雪国」を読むと、あまりの落差に頭がクラクラしてくるのだけれども、個人的には発売日も近いこの2冊を読めば、ゼロ年代の年末はいろんな意味で「楽しく」過ごせます。


◆人知れず戦いあう日本の歩哨たち「ドキュメント 秘匿捜査」

ドキュメント秘匿捜査 警視庁公安部スパイハンターの344日

ドキュメント秘匿捜査 警視庁公安部スパイハンターの344日


 先の2冊を読むとそんなどうにも救いがたい現代日本の有り様が見えてくるんだけれども、そんな恵まれぬ状況下でありながらも、「歩哨(セミトリ)とも言うべき、仕事を黙々とこなす大人たち」がいるから、日本はその体を成しているんだなというのが、悲しくも雄々しく見せつけてくれるのが本書ドキュメント秘匿捜査 警視庁公安部スパイハンターの344日
 2000年にGRU(ロシア連邦軍参謀本部情報総局)のスパイに自衛隊の秘密資料が、現役自衛官によって流されたという通称「ボガンチンコョフ事件」の始まりから結末までを描いた迫真のドキュメントである。
 読み始めた当初は、文章が読みにくさに難渋するのだけれども、三分の一も読むと、もうそんなものは気にならなくなってくる。緻密な取材から浮かび上がってくる、冷戦終結以降も形を変えて続いている防諜(カウンターエスピオナージ)の熾烈な現状に読むのが止まらない。

愛息の白血病という不幸に見舞われながら、研究の資料を得るためにロシア外交官に接触する自衛官
そうした相手の状況を利用して、自衛官をエージェントとして絡めとっていくロシアスパイ
地道な捜査によって、二人の接触を察知して、スパイ防止法のない中で最善策を模索していく公安警察
プーチン来日の最中への捜査に、政治的な判断を加味しようとする、かつてのスパイハンター

 今までにいろんな公安警察ドキュメントを読んだけれども、本作はその中でも頭二つぐらい飛び抜けて面白い。正直言って「攻殻機動隊」を最初に読んだ時ぐらいのサスペンスを読者に与えてくれるのは間違いない。
想像を絶する技術と技術の押収するインテリジェンスの世界と、個々の捜査員たちの曲げられぬ自負心。そして非常の限りを尽くしていたロシアスパイが、任務を失敗したときに妻の前で見せる慟哭……。
 扱われている内容の衝撃度だけではなく、それに関わってくる人々の人間臭さがたまらなく胸を打つ。
 必見の3冊です。

小林系作品集 notebook

小林系作品集 notebook


 最後に小林系さんのイラスト集もちょっと宣伝しておきますね。

尖閣衝突ビデオは、佐藤秀峰の陰謀(嘘)

というギャグを思いついたので、書かざるを得なくなってしまった。

自分の原稿を放流したものの、更なる宣伝のため、ここで一発「海猿」を書いたコネを活かして、流したんだよ(笑)。

この流出ビデオは

海猿2 尖閣諸島編」

の壮大な予告。

もっとも大森望さんのいうように、水嶋ヒロの陰謀というのも捨てきれない。
「社会派」と「命」の部分が、尖閣諸島ビデオ流出に絡んでいるとか?



いかんなー、頭の中が虚構新聞とかbogusnewsになっている。

でもこの思いつきで両者には勝ったか?


とか何とか言っていたら、本当に宣伝になり始めている!

ishikitokihiko (一色登希彦)
陰謀説の渦中の佐藤秀峰の電書サイト「漫画onWeb」はこちら♡→ http://bit.ly/cXw0w2 RT @S_Nakatsu: みんな頭悪すぎる! 尖閣衝突ビデオの流出は、佐藤秀峰の陰謀だよ! 「自分が放流した海猿原稿にもっと注目を集める!」 これを狙ってるんだよ。

まったくネットは生き馬の目を抜くやつらばかりだぜ!

《オーベルシュタイン》 meets 『中国嫁』

バリバリ仕事中です!
さて、ブログネタとしてとても面白いのは、政治ブログとしていつも面白く読んでいる「雪斎の随想録 とある政治学徒の戯言 part.Ⅱ」の人が、井上純弌さんの『中国嫁』を読んだというあたりだろうか?

最近、興味深いサイトを見つけた。
「中国嫁日記」 という漫画家のサイトである。
このサイトに寄せられるコメントを観れば、日本人は、まだまだ、「平衡感覚」を働かせている。結構なことである。

http://sessai.cocolog-nifty.com/blog/2010/10/post-fed0.html
雪斎こと櫻田淳氏は、何度かこのブログでも取り上げたけれども、保守派政治家論客として幾つもの興味深い本を執筆されており、その経歴から個人的に「実在するオーベルシュタイン」と個人的に思っている。と同時に本人にもそのことが伝わっていたりする。……いや、一度ブログ読まれてしまってね(笑)。
ご本人的には「ネットで調べたり、周りの銀河英雄伝説を読んだ人に聞いたけど、良く解らん」とコメントされてしまったような記憶があるが、オタク業界界隈やはてなリベラル系オタクの間で多少の話題になったりしていた。
そんな櫻田氏が、井上純弌こと希有馬屋さんの『中国嫁』を好意的に読んでいるあたり、なんとも言えぬ味わいがある。
《オーベルシュタイン》 meets 『中国嫁』
とか
オーベルシュタインの犬
とかなんかこー、いろんなものが頭をよぎる。
『中国嫁』は、書籍化企画が進行しているそうなのだが、その際には下手に左派系の論客に推薦文を書いてもらうよりも、保守系の櫻田淳=雪斎氏に帯に推薦文を書いてもらうほうが注目を浴びそうなので、このことを強く進言したいと思う。

漢書に学ぶ「正しい戦争」 (朝日新書 134)

漢書に学ぶ「正しい戦争」 (朝日新書 134)


「弱者救済」の幻影―福祉に構造改革を

「弱者救済」の幻影―福祉に構造改革を

深町秋生「ダブル」にみる「ダークナイト」のジョーカーの影

一応、生存報告を。大量に書きたいことは色々あるのだけれども駆け足で。
さて深町秋生さんの新作「ダブル」はすごい傑作。作家としてメルクマールになる一作であるのは間違いない。

ダブル

ダブル


ネットでは女刑事が人気ですが、個人的には主人公の仇役である新興マフィアのボス・神宮がとても魅力的。名前から分かるとおり、「ダークナイト」のジョーカーをモチーフにしたキャラクターである。
「覇権的な秩序よりも、享楽的な混沌」を追い求め、「聞くたび毎に過去の経歴が違う」「自分とベースを同じくする主人公の本性を暴きたがる」あたりなどにそれはたびたび言及されています。
ゼロ年代的な悪役であるジョーカーをどのようにしたら倒せるのか。
言い換えるなら
「ジョーカーを倒せる主人公は、何に依ったどんな存在なのか?」
それが本作の一つのテーマになっている。
と同時にジョーカーを倒せる主人公を造詣したあと、
「はたしてジョーカーを倒した後、はからずも怪物化せざるを得なかった主人公をいかにして救済するか」
というのが、「ダークナイト」への一つの返歌ともなっているので、ファンは注目して読んで欲しい気がする。
まぁこれ以上書くと、発売間もない作品の分析と言うよりもネタバレになってくるのでやめときますが、最後までノンストップで楽しめました。
発売日を考えても、確実に大藪春彦賞に絡んでくるであろう本年度の傑作の一つであるのは間違いない。
ダークナイト 特別版 [DVD]

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まぁ詳しい分析は発売後一、二ヶ月を経たあたりで〜。

P・W・シンガー新刊「ロボット兵士の戦争」が出た

帯文句「クリックひとつで戦闘準備完了」
しばらく書店のミリタリー関連の足を運んでいなかったら、7月末にP・W・シンガーの新刊が出ていました。
しまった、20日間ほど買い遅れた!
P・W・シンガーといえば、「戦争請負会社」「こども兵の戦争」を書いたノンフィクションライター。こういう書き方をしてしまうとより分かりやすいけれども、近年の「メタルギアソリッド」や「虐殺器官」の最大の元ネタ。
必読! ちょっと今晩は読めないかと思うけど。

ロボット兵士の戦争

ロボット兵士の戦争


読んでない人は下記の著作もぜひ!
戦争請負会社

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子ども兵の戦争

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